- 著者
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水島 久光
- 出版者
- 日本記号学会
- 雑誌
- 記号学研究 (ISSN:27588580)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, no.1, pp.1-19, 2023 (Released:2023-11-24)
20世紀に大きな議論となった「哲学と言語」の関係は、Linguistic Turnのラベルが貼られたまま、半ば消費しつくされオワコンと化した感がある。しかし後の「認知科学」や昨今のロボティクスへの注目の中に、その積み残しは深い傷として残されている。本論は認知言語学の雄、G.レイコフと協働者M.ジョンソンとの二冊の「共著」に注目し、「学際性」の問題を再考する試みである。レイコフとジョンソンはこれらの著作を通じて、言語から認知へと「転回」の時代の主題の変化をともにしたが、それは必ずしも論理展開や解釈を共有していたわけではなかった。そのことは、二人の思考の型の違いを表している。レイコフの演繹とジョンソンの帰納のすれ違い――その分析は、我々研究者誰しもが囚われてしまうリスク=学問の党派性、権威性への無意識を白日のもとに晒す契機となる。R.ローティやI.ハッキングの「言語」と「哲学」の関係性への問いを出発点に、認識のインターフェースの変遷とその連続性を提起し、そこに横串を通す可能性を有するものとして、記号の知(アブダクション)を改めて位置づける。