著者
川端 健嗣
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.61-89, 2016-05-30 (Released:2021-12-29)
参考文献数
51

本稿はウルリッヒ・ベックの社会理論の成立背景を明らかにすることを目的とする。 一九八六年にチェルノブイリの原子力発電所の事故があり、同年にベックはリスク社会論を発表した。以降、ベックの研究は学問内在的脈絡ではなく社会変化に応じる「時代診断」として脚光を集めた。 しかしベック自身が主張する通り「時代診断」には学問内在的な「理論的営為」の支えが必要である。そうでなくては「マスメディアの後追い」に陥り論理体系的な発展や継承が見込めない。 ベックの理論を構成する包括的命題は「再帰的近代化」である。「再帰的近代化」はスコット・ラッシュとアンソニー・ギデンズとの共有命題である。ベックは両論者との立論の違いを「非知」の働きから説明している。では「非知」論はいかなる研究系譜に位置付くのか。 二〇〇一年にペーター・ヴェーリングは「非知」の研究が社会学史に「不在」であったと指摘する。しかし一九七〇年代のベックのドイツ実証主義論争の研究には「非知」の前身となる問題設定を見出しうる。 実証主義論争は認識の限界と基礎付けを主題としていた。ベックは認識の限界や統制のきかない知識が、研究成果の「使用」される場面で「生み出されている」と指摘した。「非知」を知の欠落である「無知」や途上の「未知」ではなく、知の産出や運用自体がもたらす分からないこととして積極的に措定する視座は、実証主義論争の問いから出発していると再定位できる。

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