- 著者
-
石島 健太郎
- 出版者
- 日本社会学理論学会
- 雑誌
- 現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, pp.41-53, 2015 (Released:2020-03-09)
本稿の目的は、堀智久によって日本の障害学の固有性を規定するものとして提出された反優生思想と、欧米の障害学を中心に議論されている健常主義Ableism批判を比較することによって、前者の性質を精緻に理解すると同時に、障害学の存立基盤がいかなるものであるべきかを議論することにある。
本稿は反優生思想と、健常主義批判の議論を概観した上でこれらを比較し、これらが障害の社会モデルの難点を克服するという点で共通するものの、ある一点で決定的に異なることを示す。それは、障害者/健常者というカテゴリーを維持するか否かという点である。すなわち、反優生思想を基盤とする障害学は、その他のマイノリティとは質的に異なるものとしての障害に定位して学を展開できる一方で、障害者の産出プロセスや、人々を序列づける機制を疑えない。逆に健常主義批判を基盤とする障害学は、そうした人々を障害者や健常者として分ける仕組みを根底から批判できる一方、この社会で不利益を被る他のマイノリティと障害者との差異に鈍感になってしまう。
こうした一長一短を踏まえた上で、本稿は健常主義批判の方が障害学の基本的視角として有効であると考えるが、一方で本稿は反優生思想の障害者運動や相互行為場面における実践的有効性を認める。ゆえに、学と運動がそれぞれ、健常性を相対化していくという共通の基盤の上に連動していくことがポスト社会モデルの障害学のあり方として提示される。