著者
小田 雅也
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.617-629, 1993-08-10

はじめに 今から30年ほど前には,肝脳相関する疾患の研究は大きなトピックであり,現在われわれの持っている知識の多くはその頃に発展した1)。その結果,治療の著しい進歩によって,最近ではこの種の疾患は激減し,患者の予後も好転するとともに,研究テーマとしてはやや古くなった感がなきにしもあらずだが,とくに“肝性グリア”と言われるように,アストロサイトの異常形態の多くが,肝性脳症をもととして明らかにされ,これらの研究を通して,神経系機能におけるグリアの重要性が認識される糸口となった。以下には肝疾患のグリア障害につき,著者自身の研究を中心として,形態的な側面から概観する。 定型的な肝性脳症の臨床・病理像の中核は,長期にわたって反復する意識障害のエピソードと,グリアと実質(ニューロン)の二本立ての脳障害である(表1)。これにいかにアストロサイトの異常が役割を演ずるかは,今なお未解決の課題である。最近では,アストロサイトの培養,免疫組織化学,生化学分析,電顕などを併用して,肝性脳症の発生機序に関するbiopathologicalな研究が発展しつつある。
著者
大田 貴弘
出版者
医学書院
雑誌
総合診療 (ISSN:21888051)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.537, 2019-05-15

gestalt 暗い中、側臥位で片眼(例:右眼)を枕にうずめ、左眼だけでスマートフォン(スマホ)の明るい画面を見る状況(図1)を想定する。スマホを消し両眼視に戻ると、うずめた枕の暗さに適応していた右眼に比べ、明るい画面に適応していた左眼は暗順応に時間を要し、一時的に見えづらく感じる現象のことを指す1)。
著者
大鳥 精司
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.485-488, 2019-05-25

先進国を中心とする国際機構,経済協力開発機構(OECD)の2015年のデータをみると,医師に占める女性の割合は,日本は20.4%で,加盟国で最低だった.つまり,日本は先進国で最低ということで,加盟国平均のおよそ半分だった.女性医師の割合は若いほど高く,2012年度の調査委においては,50歳以上では約10%であるが,29歳以下,30〜39歳ではそれぞれ35.5%,30.1%となっている.平成24年診療科別医師男女比では皮膚科や小児科,産婦人科といった診療科では女性医師の占める割合は高いが,外科や脳神経外科などの診療科では,非常に低い.深刻なのはわが整形外科で4.4%であり,診療科最低となっている(図1).千葉大学整形外科も開講から65年の歴史を有するが,初めて女性医師が入局したのは平成元年であり,それ以降も各学年に1名の入局にとどまっているのが現状である(図2).したがって,私が得られているのは非常に数少ないデータであるが,個人的に考察してみたい.
著者
堀井 恵美子
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.449-450, 2019-05-25

大学時代に指導を受けた先生の奥様の「卒業したら,女医は3倍働かないと認められない」という一言を,卒後40年たった今も忘れることはない.当時は女子医学生10%の時代だったから,ずっと男性の中で実習も部活も行ってきた.女性整形外科医は稀有の時代だったから,どこへ行っても女性1人は続いたが,違和感なく過ごしてきた.整形外科の仕事が好きだったので,長時間業務も気にならず,無我夢中で楽しく日常診療を行ってきた. 研修医以降のキャリアの形成には,指導医の役割が重要である.卒業時点では男性医師と同じスタートラインに立っているが,まず,科を選択するにあたって,好き・嫌いよりも,“体力的にどうか?”,“出産・育児を乗り越えられるか”などを考慮せざるを得ない.特に外科系を選択しようとすると,これらの不安材料は足かせとなる.キャリアと家庭を両立できるかどうかは,家族の支援と,社会の理解と,そしてなによりも指導医(上司)の理解が不可欠である.私の時代は一般的にはそれらを期待できず,恵まれた環境にいる人とスーパーウーマンだけがそれを享受できた.実際,大学時代の同期(女性)の中で,育児経験者は半数以下で,厳しい環境であったことがうかがえる.
著者
大日向 雅美
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.749-753, 2001-09-25

はじめに 「子どもが小さいうち,とりわけ3歳までは母親が育児に専念すべきだ」という考え方は,子育ての真髄をあらわしているとして人々の間で長く信奉されてきた。その子育て観が近年,大きく揺らいでいる。1998年版『厚生白書』によって合理的根拠のない神話と断定されて話題となったのは記憶に新しい。しかし,依然として「3歳までは母親の手で育てるのが最適」という子育て観が根強く残っていて,出産や育児に専念するために仕事を辞める女性が少なくない。また,いじめや非行の凶悪化等,最近の子どもの成長の過程をみると正常とはいえない歪みを示す現象が目立つことから,乳幼児期の母子関係の重要性を再評価すべきだという論調も一部で強まっている。この立場に立つ主張は,幼少期に母親が育児に専念する重要性は古来普遍の真理であり,何よりも尊重すべきであって,それを神話とみなすような態度が昨今の子育てを歪めている元凶だという。 しかし,このように乳幼児期の育児を専ら母親一人で担うように主張する考え方は,歴史的にみれば大正期の資本主義の勃興期にルーツがあるのである。都市型の労働力を確保するための社会的・経済的要請に基づく性別役割分業体制を支えるイデオロギーであったにすぎない。そもそも子育ては現在の社会のあり方を反映するものであり,同時に未来の社会のあり方に対する要望に敏感に反応するものである。今,なぜ三歳児神話が問い直されるのか,時代が要請しているものは何かを明確にした議論が必要であろう。
著者
中野 美保
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.678-681, 2010-08-25

はじめに 高齢者は加齢による機能低下に加えて,何らかの原因で長期臥床した場合,急速に日常生活能力が低下する。その結果,自尊感情の低下が生じ,生きる目的や意味が見出せなくなり,生活全体が活動性の低い状態になる。そうした状態を改善するためには,活動性を高め回復意欲を向上させるための,日常生活動作(以下,ADL)の自立に向けた援助が肝要となる。 S氏は70歳代後半の老年期の女性で,膵炎の再燃と寛解を繰り返し,入院8か月目となっていた。受持ち時,リハビリテーション(以下,リハビリ)が再開されたが「何もできない」「思うように立てない」「リハビリが進んでいるように全然感じない」等,否定的な言動が多くみられた。 今回担当した患者に対して,ADLの拡大に向けて,患者が喜びや楽しさを実感することができ,手指の巧緻性を高める指導・援助を行うことが有効であろうと考えた。そこで,遊びを交えたリハビリを行うことで,患者の回復意欲の向上が図られ,効果的にADLを拡大できる指導援助に取り組んだ。 このような「遊びリテーション」(三好春樹氏が提唱している,リハビリに遊びの要素を取り入れたもの)を取り入れることで,高齢者の回復意欲を喚起し,ADLを拡大させるための有効な手段になるかを,実践を通して明らかにしたいと考え,本主題を設定した。
著者
宮崎 康
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.191, 2010-03-15

ある日の外来に,「右の横腹が痛む」といって28歳の女性が来た.1週前に同じ訴えで近医を受診し,尿と血液検査,腹部エコーを行ったが異常ない.「胃炎」の診断で胃薬をもらったが一向によくならず,ちょっと咳をするだけで痛みが強くなるという.看護師の介助を得ながら,眼・頸部から胸背部の診察を行う.帯状疱疹を示唆する皮疹はない.仰臥位になって膝を立ててもらい,腹部全体を掌全体で触診すると,臍の下に鈍い痛みを訴える.右上腹部を打診すると,痛みで顔をしかめる.さらに第2から5指の腹で柔らかく押さえながら,「指を持ち上げるように」深く息を吸ってもらうと,やはり顔をしかめる.体温は36.5℃.「いきなり聞きますが,おりものはないですか?」「ええ,1カ月前頃に多くて,下腹も痛むので婦人科に行こうと思っていましたが,よくなったので….」
著者
上野 文昭
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.1066-1067, 1989-06-10

慢性肝疾患は数ある慢性疾患の中でも最も経過の長い疾患の1つです.慢性非活動性肝炎はもちろんのこと,最も重篤とされている肝硬変症にしても突発的なことが起こらない限り長い経過をたどるのが普通です.腹水,黄疸,脳症を呈しているような非代償性肝硬変症にしても例外ではなく,適切なマネージメントがなされていれば,そうやたらに急変はしません.このような非代償性肝硬変症の患者が急速に悪化してきたようなとき,すなわち腹水が増加し,黄疸が増強し,意識レベルも低下し,肝機能検査も増悪してきた場合には,どのような原因が考えられるでしょうか.しばらく時間をさいて可能性のある原因を頭に思い浮かべて下さい.
著者
武部 恭一 石川 斉 広畑 和志
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.17, no.9, pp.957-962, 1982-09-25

ファベラは腓腹筋外側頭に存在する種子骨であり,本邦でもYano21),大井11),Kojima8)らによる解剖学的調査の報告が古くよりみられる.しかし一般には,その臨床的意義は小さいと考えられており,臨床上問題となることはまれである.1977年Weinerら20)はファベラにおける鋭い疼痛,限局した圧痛,膝伸展時痛の3症状がみられる症例をファベラ症候群として報告した. 我々も最近ファベラが膝部痛の原因となったと考えられ,彼らのいうファベラ症候群と思われる症例を経験したので,その臨床症状ならびに病態などにつき検討を加え報告する.
著者
唄 孝一
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.10-14, 1973-01-15

健康権という概念を,独立の熟したことばとしては耳にしたことは必ずしも多くない.そして今,健康権を唱導することに私はたしかにある意欲と使命感とを感じている.しかし,それとともに,この新しいターミノロジーのもとにまた「××権」を一つ加えることに,ある種のシュプレヒコールにあるあの空しさ,とまではいわぬにしても,こういう問題のとり上げ方の必要性に多少の懐疑心をすてきれないこともまた事実である.この二つの,少なくとも外見的には矛盾する自己反応を,ともかくもじっとふりかえりみつめてみよう,そしてさらにこの心象風景を生み出す客観的条件の考究に着手してみよう,これが本稿の趣旨である. 端的にいって,健康権というとき,憲法25条を思い出さない人は少ないであろう.すなわちそれは「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ことを明記しているからである.これは生存権的基本権として注目され,単に法学界だけでなく法律実務上でも,いや国民生活一般の上でかなり論議されまたそれなりに機能してきた規定である.
著者
佐藤 裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.466-468, 2004-04-20

1881年に行った胃癌切除手術があまりにも有名なため,Billrothが1873年に世界に先駆けて喉頭癌を切除したことは忘れられがちであるが,ヨーロッパではBillrothの業績を語るに際しては,むしろ胃癌より喉頭癌切除手術のほうが先に取り上げられる(以前「ビルロート余滴・4」で述べたように,ウィーン大学付属医学史博物館のBillroth顕彰文でもまず1873年に行われた喉頭全摘手術のことが先に述べられている:図1).言い換えれば,Billrothが「近代外科学のパイオニア」と賞せられるようになるきっかけはこの喉頭全摘手術であったと言える. 今回は,以前よりたびたび引用しているAbsolonの論文に基づいて,この歴史的手術の詳細を紹介していくことにする.
著者
荒木 徹 沖宗 正明 松元 鉄二
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.157-159, 1984-02-20

尿道下裂,Peyronie病,尿道狭窄などの原因がなく勃起時にだけ陰茎が弯曲する先天性陰茎彎曲症には通常Nesbitの手術1)が行われる。最近われわれも勃起時腹側に弯曲する本症の1例をNesbitの方法で治癒させえた。この際,矯正が満足できるものとなつたか否かを術中に人工勃起を作つて確かめ,また陰茎海綿体白膜上の血管と神経の損傷を防ぐために生食水を注入してこれらを遊離して手術を行い好結果を得たので報告する。
著者
今出 真司 内尾 祐司 若槻 拓也 古屋 諭 中澤 耕一郎 松村 浩太郎
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.230-234, 2019-04-25

は じ め に 骨折治療では主にチタン製ネジが使用されている.チタンは生体適合性がよく耐食性に優れ,ステンレス鋼に比較し高強度低剛性を有する骨折内固定に適した素材である.一方で,骨折治癒後は異物となり抜去を要する.偽関節症例では抜去後のネジ孔が骨欠損部となって問題を上乗せする.こうした問題を解決するため,筆者らは患者自身の骨をネジへ加工し骨接合を行う「自家骨製ネジによる骨接合術」を考案した.専用機器開発から実臨床応用まで行い,現在はより汎用性を高めた骨折治療支援システム構想を立ち上げているので紹介する.
著者
伊東 若子
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.529-533, 2017-06-15

はじめに 近年,成人の発達障害が注目を浴び,精神科外来を受診するケースが増えている。筆者は,睡眠障害を対象とした睡眠専門外来を行っているが,発達障害の患者が睡眠の問題を訴え来院するケースも非常に増えている。筆者が所属する病院が成人の発達障害専門外来を有しているところも大きいかもしれないが,睡眠の問題を訴えてくる患者の中に,「発達障害もあるのではないか」と自ら相談してくるケースや,また,睡眠の問題を主に訴えてくる患者であっても,その背景には発達障害があり,その結果としての睡眠の問題であることも多く経験する。発達障害に睡眠の問題を多く認めることは以前より知られているが,その原因は単一ではない。発達障害における睡眠障害は,発達障害の病態と深く関連しているものがあり,本稿では,発達障害の中でも注意欠如・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder;ADHD),自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder;ASD)と睡眠の関係について,病態との関係から概説したい。
著者
神﨑 美玲 禾 紀子 青島 正浩 戸倉 新樹
出版者
金原出版
雑誌
皮膚科の臨床 (ISSN:00181404)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1800-1804, 2018-10-01

38歳,男性,ゴルフ指導員。初診前年の秋より,食事や運動時に,背部にチクチクとした痛みがあった。初夏には発汗低下,うつ熱のため屋外での仕事に支障をきたし,8月には熱中症に至った。コリン性蕁麻疹の合併はなく,温熱発汗試験で広範囲な無汗,発汗低下がみられた。薬物性発汗試験は陰性であった。病理組織学的に汗腺組織の形態学的異常はなく,炎症細胞はわずかであった。無汗部の汗腺上皮では,アセチルコリン受容体の発現が低下していた。無汗をきたす基礎疾患や自律神経異常はなく,特発性後天性全身性無汗症と診断した。ステロイドパルス療法が奏効し,3クールで発汗が回復した。本症はまれな疾患であるが,早期に診断・治療すべきである。
著者
六崎 裕高 吉川 憲一 佐野 歩 古関 一則 深谷 隆史 山崎 正志
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.241-244, 2019-04-25

は じ め に ロボットスーツHybrid Assistive Limb(HAL;Cyberdyne社)は,着用可能なロボットで,装着者の皮膚表面に貼付された電極から生体電位信号を解析し,パワーユニットを制御して,装着者の動作を支援することができる1).これまで,脳卒中,脊髄疾患,小児疾患などで安全性や効果が報告されてきた2~4).人工膝関節全置換術(TKA)後においても,関節可動域(ROM)の改善のために単関節型HALが用いられ,また,歩行能力の改善のために両脚型HALが用いられ,安全性や効果が報告されてきた5,6).われわれは,歩行能力,ROM,筋力の改善を念頭におき,両脚型HALより軽量で,単関節型HAL同様にROM訓練可能な単脚型HALを用いてTKA後にトレーニングを行い,リハビリテーションとしての可能性を考察した7).これをもとにTKA術後急性期における単脚型HALを用いた臨床研究について報告する.
著者
中川 将吾 六崎 裕高 鎌田 浩史 俣木 優輝 遠藤 悠介 松田 真由美 高橋 一史 岩崎 信明 山崎 正志
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.245-248, 2019-04-25

は じ め に 外骨格型の動作支援ロボットであるロボットスーツHybrid Assistive Limb(HAL;Cyberdyne社)を使用した機能回復訓練が脳卒中,脊髄損傷,変形性関節症といったさまざまな運動機能障害患者に対して導入され,その良好な結果が報告されている1~3).HALは関節運動の補助を行うとともに,補助された運動の変化を感覚系が中枢神経にフィードバックし,HAL取りはずし後にもその効果が継続するのではないかと考えられており,interactive bio-feedback仮説と呼ばれ,麻痺症状を呈するさまざまな疾患に対しての効果が期待できる4). HALは,脳性麻痺患者に対しても自立歩行を可能にすると報告されている5).脳性麻痺はさまざまな病型があるが,痙縮型に代表されるように,筋出力のインバランスを伴っている.重症度の分類であるgross motor function classification system(GMFCS)(表1)6)のレベルⅠからⅤに進むに従って重症化し,筋出力のインバランスも強くなってくる.GMFCSレベルⅢやレベルⅣの症例は,歩行訓練を行い,筋出力のインバランスを調整することで歩行能力を維持し,変形を予防し,介助量を減少させることが可能である. われわれのグループでは,運動機能障害を有する脳性麻痺患者に,HALを使用した歩行訓練を外来レベルで単回,また入院して集中的に行っている.本稿では脳性麻痺患者に対してのHALを使用した歩行トレーニング方法と,使用後の効果について報告した.
著者
清水 如代 門根 秀樹 久保田 茂希 安部 哲哉 羽田 康司 山崎 正志
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.249-252, 2019-04-25

は じ め に 脊髄損傷に伴う完全下肢麻痺患者における歩行再建のために,歩行支援ロボットが臨床応用されている.トレッドミル据えつけ型ロボットのLokomat(Hocoma社)や,外骨格型装着ロボットであるReWalk(ReWalk Robotics社)などが知られている.これらはあらかじめ決められたプログラムに基づく歩行で筋活動電位の取得できない完全麻痺患者でも使用できる反面,受動的な歩行となり麻痺患者の運動意図を反映しにくいものとなる. ロボットスーツHybrid Assistive Limb(HAL,Cyberdyne社)1)は,装着者の神経筋活動を感知することのできる生体電位センサをもつ外骨格型装着ロボットである.重度麻痺症例で筋活動が微弱であっても,生体電位センサにより感知できる点が,他のロボットにない最大の特徴である.われわれは,随意的筋活動が得られない症例であっても「四肢を動かしたい」という運動意図により随意的に麻痺肢を動かすために,本来の主動筋ではない残存筋にセンサを貼り,トリガーとして選択する方法を開発した.この方法をheterotopic Triggered(異所性のトリガーを用いた)HAL(T-HAL法)2~4)と名づけ,完全麻痺者を対象に麻痺肢の随意運動訓練を行っている.本稿では,T-HAL法について概説をする.
著者
赤井 靖宏
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
Hospitalist (ISSN:21880409)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.119-120, 2014-03-01

中枢性塩類喪失症候群cerebral salt-wasting syndrome(CSWS)は,くも膜下出血,頭部外傷などの中枢神経疾患において,尿中にNaが不適切に排泄されることによって,低ナトリウム血症と細胞外液減少をきたす疾患である。実臨床においてCSWSと抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)の鑑別はしばしば困難である。これは,①両病態で,尿浸透圧上昇(CSWSでは循環血漿量低下,SIADHでは不適切なADH*1分泌による),尿中Na>40mEq/L(CSWSでは不適切な尿中へのNa排泄,SIADHでは循環血漿量増加による),血清尿酸値低下(CSWSではBNP*2などの内分泌因子や交感神経系の不全の影響で近位尿細管における尿酸排泄増加による影響が推測され,SIADHでは循環血漿量増加とADHのV1受容体への直接作用による1))などの生化学的指標で有意な差異がないこと,②両病態がともに中枢神経疾患に合併すること,による。 中枢神経疾患に合併した低ナトリウム血症で両病態を鑑別することは重要である。これは両病態で治療が異なり,両病態の診断を誤ることが患者の予後に影響を及ぼす可能性があるためである2)。例えば,SIADHではしばしば飲水・輸液制限が行われるが,実際にはCSWSである患者に飲水・輸液制限が行われた場合には,さらに循環血漿量が減少して血圧が低下し,脳梗塞などの血管合併症を惹起・悪化させる可能性がある。両病態の鑑別のポイントを以下にまとめる。
著者
松岡 晃弘 矢島 健司 渡部 秀憲 川上 民裕 相馬 良直
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.98-101, 2008-04-10

要約 シクロスポリン内用液含嗽療法は,扁平苔癬や天疱瘡による難治性口腔内病変に対して,その有効性が報告されている.筆者らは,78歳の女性の天疱瘡患者の,ステロイド内服治療に抵抗する口腔内病変に対し,ネオーラル®内用液含嗽療法を行い,その良好な治療効果を確認した.含嗽時に口腔内灼熱感と疼痛がみられたが,粘膜症状の改善とともに軽減した.その他の副作用はなく,シクロスポリンの血中濃度も測定感度以下であった.シクロスポリン内用液は天疱瘡に対する保険適用がなく,含嗽という投与形態も認められていないため,天疱瘡に対するシクロスポリン内用液含嗽療法は安易に行ってよい治療法ではない.しかし,適切に使用すればほとんど副作用はなく,高い効果が期待できることから,ステロイド増量や免疫抑制薬内服が困難な患者に対しては,十分なインフォームド・コンセントを得たうえで,試みてもよい治療法であると思われた.