著者
平井 利明 福田 隆浩 鈴木 正彦 横地 正之 河村 満 後藤 淳 織茂 智之 藤ヶ﨑 純子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.201-208, 2012-02-01

症例提示 司会(鈴木) それでは,症例提示をお願いします。 主治医 (平井) この症例は,タイトルにあるように急性の精神病様症状で発症して,いろいろな鑑別を考えながら治療したのですが,完全に袋小路に入ってしまって,何がどうなって進んだのかもよくわからないまま亡くなられました。病理解剖の結果,まさかという結果が出てきまして,自分自身とても勉強になりました。
著者
服部 兼敏 東山 弥生
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.315-323, 2010-08-15

看護場面で使われるオノマトペ 「カピカピ」,一体何のことだろう。看護の現場で用いられているこのコトバに初めて接する部外者は,驚くことになるだろう。説明を受けて,「カピカピ」とは,痰というもともと粘稠にあるものが乾燥した傾向に向かうときの状態であることがわかる。では「キンキン」とは。これは,腸閉塞の状態をいう。腸閉塞患者の腹部に当てた聴診器から聞こえる音が,「キンキン」という金属音に聞こえるために,このようにいわれるようになったそうである。さらに,浮腫が現われた状態,これは「プヨってる」と表現される。これらは,言語学でいうオノマトペ(擬音語,擬態語)である。 看護という専門領域では,微妙な患者の状態を表わし,その微妙な状態の変化に対応した手技を喚動(動きを呼び起す)するために,オノマトペが頻繁に用いられているのではないだろうか。患者の生死を左右するという極限状態において,また看護師が自分の生命すらかけなければならないような状況において,極限状態に対峙するに相応しい認知行動がとられているのではないだろうか。看護現場のエキスパートを観察していると,そうとしか考えられない言語行動がみられる。
著者
篠崎 温彦
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.455-457, 1984-12-15

■特性 植物レクチンのコンカナバリンA(Con A)は赤血球やグリコーゲン,デキストランなどの多糖類と凝集沈降反応を起こし,またメチル-α-D-マンノピラノシドやメチル-α-D-グルコピラノシドのような単糖グリコシド誘導体に対しても極めて特異的な結合をする。この二つの単糖グリコシド誘導体に共通していることは,2位炭素以外の全骨核原子における置換基の立体配置が全く一致していることであり,これはまたそれぞれ凝集反応を起こす多糖類の非還元末端残基に対応している。このように,Con Aは極めて特異的に一定の糖構造と結合することが明らかにされたのに伴い,これを用いて生理学的,生化学的に多方面の研究が進み,Con Aの各様の生理活性が報告されるに至っている。この項ではシナプス後膜に対する作用に限定して解説する。神経伝達物質の受容体は糖蛋白も関与していると考えられることから,伝達物質応答に対するCon Aの作用が調べられ,特に興奮性神経伝達物質の有力な候補であるグルタミン酸による受容体の脱感作(desensitization)を抑制することが報告された。グルタミン酸が受容体に長い間(おそらく5msec以上)作用し続けると,グルタミン酸が存在するのにもかかわらず,グルタミン酸に対する受容体の反応が低下(desensitization)する性質がある。
著者
坂井 文彦
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.343-349, 2002-06-10

国際頭痛学会分類の診断基準を使用した慢性頭痛の大規模な疫学調査が日本でも行われ,片頭痛の有病率は15歳以上の人口の8.4%と多いことが明らかにされた。片頭痛のために日常生活がかなり犠牲になっている人も多く,約74%の人がかなりの支障度に悩まされている。その割に,片頭痛に対する認識度は低く,定期的に医療機関を受診している人は全体の2.7%にすぎない。片頭痛により患者が大きな犠牲を強いられていることは社会にとっても大きな損失であり,経済的損失としても大きい。最近,片頭痛治療薬に大きな進歩がみられている。新しい薬剤を正しく使用するために,医療側,患者側いずれの認識も高まることが必要である。
著者
大沼 すみ 竹川 清 岡島 光也 川口 とし子 大沢 純子 北村 和子 池澤 善郎
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.597-601, 1997-07-01

過去4年間にラノリン製剤による接触皮膚炎を23例経験した.男性6例,女性17例.平均年齢は35.6歳であった.基礎疾患はアトピー性皮膚炎が最も多く,18例,78%を占めた.基礎疾患の罹病期間は平均10.8年と長くなっていた.原因薬剤はアズノール軟膏が最も多く15例,次いでアンダーム軟膏が10例であった.1995年の当科におけるラノリン,ラノリンアルコールのパッチテスト陽性率は4.5%であった.基礎疾患の約8割を占めたアトピー性皮膚炎では,総IgEが4桁の症例が最も多く,罹病期間も平均13.3年と長くなっていた.また,顔面の皮疹を伴う症例が大半を占め,原因薬剤の使用部位も顔面が最も多くなっていた.ラノリン製剤は種々の医薬外用剤,化粧品に含まれているが,重症,難治性で顔面に皮疹があるアトピー性皮膚炎の症例では,ラノリン製剤の接触皮膚炎を疑って,パッチテストを行うことが望ましいと思われた.

1 1 1 0 感情失禁

著者
藤井 博之
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.10, no.9, pp.774-778, 2005-09-01

脳血管障害などで,感情のコントロールがきかないように見える人がいます。ふとしたことで笑ったり泣いたりして,それが止まらなくなることもあります。なにがきっかけとなったのかはっきりしない人も,なかにはおられます。 こうした現象は,医学的にはいくつかの症状として理解されています。「感情失禁」は,そのなかで最も有名な用語で,看護・介護の現場はもちろん,ときには一般の会話などでも使われます。
著者
見野 耕一 中嶋 義文
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.211-220, 2010-03-15

はじめに 無床総合病院精神科の危機について語られることが最近目立ってきている。無床総合病院精神科の診療特徴が人的な不足などの問題を生じさせ,それがある時点を越えると危機的な状況に発展してしまう。本稿では,危機的な現状を検証し,その状況に対する臨床現場での取り組みを紹介し,今後の課題を論じてみたい。 有床総合病院精神科の施設数と精神科病床数についてみてみると,日本総合病院精神医学会の調査では,2002年度は272施設,21,734床であったが,2008年度は239施設,17,319床へと減少,すなわち精神科病床数は2002年度から比べると2割減少している。調査後も休止したり診療をやめたりする病院が続いている。地域の中核病院などの総合病院精神科病棟が医師不足などから閉鎖・縮小されたり,精神科外来そのものが総合病院から消失しており,わが国の総合病院精神科はこれまでにないほど危機的な状況にさらされている5)。日本病院団体協議会の調査によると,2007(平成19)年度の病床休止もしくは返還は,産婦人科,小児科に次いで精神科が3番目であった。 無床総合病院精神科の場合はもっとも減少が顕著である。日本総合病院精神医学会無床総合病院精神科委員会の調査によれば,2009年8月現在,精神科常勤医のいる無床総合病院精神科の病院数と常勤医数は178病院,268名である(シニアスタッフ3名以上の大学病院など除く)。調査2)を始めた1999年より122病院が減少(41%)している。2008年度は,10病院が閉鎖となっている。 厚生労働省の調査では,精神科専門の医師数は微増しているが,この10年で診療所と精神科病院に勤める医師数は増加したのに対し,総合病院の医師数は1割減となっている。 減少の原因は複合的である。病院間では病院統廃合がまず挙げられるが,病院内では精神科医療の診療報酬が低く抑えられているため,診療科間の比較では不採算とみなされやすく,経営の観点から閉科となることが挙げられる。最大の理由は,多忙さにある。インセンティブのない多忙さは忌避され,常勤医の異動(開業など)に伴い欠員が生じた際に赴任を希望する精神科医がおらず,結果として非常勤医による外来診療をしばらく続けた後に閉鎖となるパターンが多い。診療報酬改定により,自殺未遂で入院した患者を精神科医が診察すると診療報酬が加算されたり,がん対策基本法で緩和ケアチームに精神科医の関与が求められるなど,精神科医の役割は増しているが,その主体となる総合病院精神科医自体が減少しているため,ニーズに応えられないのが現状である。
著者
武久 徹
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.947-949, 2007-07-10

何も避妊方法を使わないと1年以内に35%は妊娠する.日本に比べ,米国では多くの避妊方法が使用許可されている.それぞれに利点と欠点があるが,各避妊方法別の1年目の失敗率は,殺精子剤29%,コンドーム15%,経口避妊薬3%であり,銅付加子宮内避妊器具(IUD)は0.8%,黄体ホルモン放出子宮内避妊装置(IUS)は0.1%である(Contraception 71 : 319, 2005/70 : 89, 2004).参考までに,日本で使われているIUD(非薬剤付加.プレイン)の失敗率はFD-13.7%,優性リング2.5%と高率である. 子宮内避妊用リング(IUD)は安全で有効な長期使用ができる避妊方法である.米国では2つのIUDが利用できる.Coopper T 380Aとlevonorgestrel(レボノルゲストレル)子宮内システム(日本商品名Mirena)である.しかし,米国でIUDを使っている女性は少数である.その理由は,1970年にダルコンシールドが米国で発売され間もなく,敗血症性流産や骨盤内炎症性疾患の報告があり医療訴訟が多発し,販売会社は莫大な訴訟費用の懸念が発生したため,1988年までに1社のIUDを除いてすべて完全に米国市場から撤退したためである.
著者
杉浦 元亮
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.223-230, 2009-03-15

はじめに 「自己と他者」という概念には,わかるようでわからない,曖昧なところがある。 自分の身体,自分の顔,自分の名前は明確に他者の身体,他者の顔,他者の名前,と区別ができる。その区別ができなくなったら大きな問題だし,そういう意味で自己と他者を区別する能力というものが脳に存在することは,誰もが認めるであろう。 では,「自分の家族」とか「自分の友人」はどうであろうか。「自分の」というのだから「自己」の側にいるのかもしれないし,明らかに自分とは異なる人格を指しているのだから「他者」なのかもしれない。この「自分の家族」や「自分の友人」を,そうでない人々と区別する能力は,自分の身体や顔や名前を他者のそれと区別する能力と,やや趣が異なりそうだ。 さらに,こちらはどうだろう。多くの若者が「本当の自分」がわからないことに焦り,本当の自分を探すために,(多くの場合比喩的な意味で)旅に出る。若者が見失ったり,発見したりする「本当の自分」とは,いったい何なのか。この意味での「自己」に相対する「他者」とは何なのか。この意味で自己と他者を区別する能力について考えるためには,また別の考え方が必要そうである。 このように「自己と他者」は,少なくとも単一の明確に定義できる概念ではない。そのこと自体は,心理学・哲学では昔から自明のことで,多くの論者が複数の「自己」や「自己と他者の区別」(の概念)について,盛んにそれぞれの立場と動機でさまざまな分類・モデルを提唱してきた6)。その数多くの分類・モデルそれぞれは,それぞれの立場で合理的であり,合目的的である。しかし筆者が,神経科学や認知科学の研究者という立場で脳内基盤を研究する目的で眺めたとき,「自己」や「自己と他者の区別」という概念を包括的に明確に解剖した分類・モデルは(筆者の知る限り)いまだ確立されていない。 本稿で筆者は,脳機能画像研究者としての立場から,「自己と他者の区別」の脳内基盤を解明する目的で,「自己と他者」の多因子モデルを提案する。脳機能画像研究者の立場で「自己と他者の区別」の脳内基盤を解明するということは,「自己と他者の区別」を実現する脳内情報処理をできる限り明確に定義し,これに関与する脳領域あるいはその複数の脳領域で構成される脳ネットワークを明らかにするということである。したがって,ここで提案するモデルは,次の3つの条件を満たしている必要がある。まず,①「自己と他者の区別」を独特の脳内情報処理として定義・説明できなければならない。それから,②その情報処理能力が特定の神経基盤に依存している必要がある。この2つは具体的には,中枢神経系の障害(できれば特定の脳領域の損傷)によってその脳内情報処理能力が特異的に欠落している(と考えられる)例を挙げられること,で同時に満たされる。そして,③脳機能画像実験の課題操作でその情報処理を作動させたり,抑制したりすることが可能,あるいはその情報処理能力の個人差を定義し,なんらかの心理測定法で量的評価ができること,が必要である。 これら3つの条件は,精神疾患の臨床と相性がよい。精神疾患の症状・障害の多くはなんらかの意味で「自己と他者の区別」の障害としてとらえることが可能である。条件1と2を満たすモデルがあれば,とらえどころのない精神疾患の症状・障害を,脳内情報処理能力の欠落/低下の概念で明確に定義・説明することができる。また,症状・障害の原因となる神経基盤から,その分子基盤(障害の原因となっている蛋白や遺伝子)を特定できる可能性が出てくる。そして条件3を満たせば,脳機能画像を用いた診断の可能性が出てくる。 筆者は,これまで自己顔認知の脳メカニズムについて,脳機能画像を用いた研究を行ってきた。その中で,自分の顔の認知に特異的な認知処理が単一の脳内情報処理や脳ネットワークでは説明できないことを実感した。「自己」について神経科学的に説明するためには,より包括的な「自己と他者の区別」の多因子モデルが必要であると確信するに至った。本稿では,まずこれまでの自己顔認知研究のあらましをまとめ,そのうえで現在筆者の妄想する「自己と他者」の多層性モデルを説明し,最後に「自己と他者」をめぐる脳画像研究の今後について述べる。
著者
佐藤 章悟 谷端 淳 今泉 和彦
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.426-427, 2009-10-15

[用いられた物質/研究対象となった受容体] クレンブテロール,デキサメタゾン/β-アドレナリン受容体 骨格筋のβ-アドレナリン受容体(AR)を介した情報伝達は筋タンパク質合成と分解,グリコーゲン代謝,脂質代謝など様々な生理機能に関与する。骨格筋に分布するβ-ARサブタイプはβ2-ARが80-95%,β1-ARが5-10%を占め,β3-ARは殆んどない。また,β2-ARの密度は収縮速度の低い筋(slow-twitch muscle:ST筋)(ヒラメ筋)では収縮速度の高い筋(fast-twitch muscle:FT筋)(長指伸筋・足底筋)より2-3倍高い。一方,心筋のβ-ARを介した情報伝達は心収縮力や心拍数などの生理機能に関与する。心筋に分布するβ-ARサブタイプはβ1-ARが60-70%,β2-ARが20-30%を占め,β3-ARは殆んどない。特に左心室筋(left ventricle muscle:LV筋)ではβ1とβ2-ARの密度が高い。このような骨格筋と心筋のβ1とβ2-AR発現は,カテコールアミンやグルココルチコイドなどの生体内情報伝達物質によって影響を受ける。また,各種作動薬によっても骨格筋と心筋のβ1とβ2-AR発現は変動するが,遺伝子発現に着目した研究は比較的少ない。
著者
本橋 ほづみ
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
細胞工学 (ISSN:02873796)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.364-365, 2015-03-22

生体が,様々な生命活動を維持するには,自由エネルギーの持続的な取得が必要である.生化学の教科書によれば,生体が生命活動に必要な自由エネルギーを取り入れて利用するプロセスを代謝と呼び,自由エネルギーを取り出す過程は異化,生体分子を合成する過程は同化として区別されている.一方,代謝中間体が,自由エネルギーのやり取りとは必ずしも直結しない生命活動に重要な役割を果たしていることも明らかにされている.クエン酸回路の中間体である2-オキソグルタル酸は,低酸素応答の鍵因子であるHIF因子群の活性制御や,コラーゲンタンパク質の成熟,ヒストンやDNAの脱メチル化などに重要な役割を果たしている.同じくクエン酸回路の中間体であるフマル酸は,その親電子性により,様々なタンパク質のシステイン残基に共有結合し,サクシネーション(succination)と称される新しい翻訳後修飾をもたらすことが報告されている.このように,代謝中間体とタンパク質機能との新しい関係の解明から,生命活動における「代謝」の意義が見直され始めている.
著者
船橋 利理 駒井 則彦 小倉 光博 桑田 俊和 中井 三量 辻 直樹
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.17, no.10, pp.917-923, 1989-10-10

I.はじめに 1982年,われわれは遷延性意識障害患者に対して意識の回復を目的に頸髄硬膜外刺激を試み著効を得たことを報告した7).その後,諸施設で追試が行われ,有効例がつぎつぎと報告5,12)されるようになってきた.しかし,いかなる部位の障害による遷延性意識障害が本法の適応になるかに関しては未だ議論のあるところである. 今回,大脳,脳幹など種々の障害による遷延性意識障害患者に対して慢性的に脊髄硬膜外刺激(Spinal CordStimulation以下SCSと略記する)を加え,治療効果を検討したので報告するとともに,本法の適応に関してもわれわれの考えを述べる.
著者
高井 信朗
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.109-110, 2012-02-25

「ムンテラ」という言葉を今でも医療現場で耳にすることがある.しかし,比較的若い医師にその語源と意味について聞いてみると,曖昧な答えしか返ってこない.そもそもムンテラの語源は,ドイツ語のムントテラピ―“Mundtherapie”に由来する.ムンはムントの略で口を,テラはテラピーの略で治療のことだ.つまり,病状や病気について,患者やその家族に話術を用いて説明する医療行為で,そのまま訳せば「口の治療」,すなわち,言いくるめる,といった意味合いから来ているので,ところによってはこの用語の使用を禁じている病院もある.しかし,欧米では,このような行為に対して,「Patient Education」という表現を用いることが多い.すなわち,疾患の診断や治療の基礎知識,そして患者の現状,治療の詳細をわかりやすく説明し,知識を与えるといった一方向的な意味合いであって,言いくるめるといった意味合いは全く含まない. 一方,インフォームド・コンセントは「納得診療」や「説明と同意」と言い換えられることも多い.「ムンテラ」や「Patient Education」と違って,医師と患者あるいは家族との関係は対等であり,従来の医師の権威(パターナリズム)に基づいた医療ではなく,患者の選択権・自由意志を最大限尊重するという理念に基づいている.「consent」とは,双方の意見の一致・コンセンサスという意味であり,必ずしも提案された治療方針を患者が受け入れるということではない.しかし,十分に時間をかけて説明した後に「難しいことはわかりませんから(あるいは,先生を信用していますから),全部お任せします」という言葉が返ってくることも多く,現実と乖離している点もある.そして,インフォームド・コンセントがまるで署名をする前の儀式のようにさえ映ることもある.
著者
長谷川 純 川瀬 哲明 菊地 俊晶 小林 俊光
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.905-909, 2005-11-20

Ⅰ.はじめに 後天性中耳真珠腫の発症機序は単一ではない。過去には,種々の成因に関する学説が呈示されてきた。内陥説1~4),基底細胞乳頭状増殖説5),穿孔説6)などがその代表である。このなかでは内陥説が広く支持されるに至っているが,内陥から真珠腫が形成されるためには,表皮ならびに皮下組織の増殖・分化にかかわる各種サイトカインの関与が必要と考えられている7,8)。 鼓膜内陥の原因としては,耳管機能不全が想定しやすく,過去にも多くの耳管閉塞実験が行われた9,10)。一方,本庄(1987)11)は,陥凹型真珠腫では耳管の通気圧は正常かむしろ低いものが多く,耳管の器質的狭窄はないことを指摘した。また,多くの症例が陰圧を能動的に解除できることから,Bluestone(1978)12)のいう機能的閉塞も少ないことを述べた。森山(2004)13)は後天性真珠腫の耳管機能について,音響法では正常型が約半数と最も多かったが,健常者に比較すると狭窄型が多かったとしている。 真珠腫の成因説として発想を転換したものに,1970年代後半にMagnusonら14)が提唱した鼻すすり説がある。耳管閉鎖障害(耳管開放症)患者では,嚥下やあくびの際に耳管が開放状態となると,耳閉感や自声強聴などの不快感が生じる。このときに「鼻をすする」ことにより中耳腔の陰圧化に続いて「耳管のロック」が起こり,不快感が取り除かれる(図1)。このとき,鼓室内陰圧は時に1,000mmH2Oにも達し,これが鼓膜の内陥やポケット形成を引き起こし,真珠腫を発症する基盤となるとの考えである。 筆者らもこの説に注目し調査を行ってきた。その結果,真珠腫症例全体の約25%にMagnusonの説を裏付ける鼻すすり癖が認められ15),上鼓室陥凹例でも20%に鼻すすり癖を認めた。もちろん,鼻すすり説以外にも真珠腫の成因は複数存在する可能性があるものの,鼻すすり癖は真珠腫の重要な成因の1つであると考えられる。 本稿では,後天性真珠腫の耳管機能について耳管閉鎖障害の観点を中心として述べ,鼻すすり癖を有する真珠腫(以下,「鼻すすり真珠腫」)の取り扱いおよび治療について述べる。
著者
高橋 正雄
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.1398, 1997-12-10

障害の受容を妨げる要因の一つに,障害者自身や家族の偏見という問題力がある.障害に対する誤解や偏見に満ちた社会のなかで暮らしている本人や家族は,しばしば,自らも障害に対する誤解や偏見を共有しているため,いざ自分が当事者になった時の混乱や絶望が大きいのである.しかし,1950年に発表されたパール・バックの『母よ嘆くなかれ』(伊藤隆二訳,法政大学出版局)には,当事者がそうした先入観を乗り越えて,自らの運命を受け入れていく過程が描かれている. 米国の宣教師の家に生まれたパール・バックは,元々「愚かなことや,のろまなことを黙って見ていられない性質」だった.しかし,精神遅滞の娘を養育する過程で,パール・バックは「娘の魂もまた,その魂として最大限に成長する権利をもって」おり,「人間の精神はすべて尊敬に値すること」を知る.彼女は,「人はすべて人間として平等であること,また人はみな人間として同じ権利をもっていることをはっきり教えてくれたのは,他ならぬわたしの娘でした.(中略)もしわたしがこのことを学ぶ機会を得られなかったならば,わたしはきっと自分より能力の低い人に我慢できない,あの傲慢な態度をもちつづけていたにちがいありません」と語るのである.
著者
福田 秀樹
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.462-470, 1996-06-10

はじめに 突然,視野の中にものが現れたり,注意を引くものがあると,その方向へすばやく目が動く。このような目の動きはサッケード(saccade)と呼ばれ,その発現には前頭前野,前頭眼野,補足眼野,頭頂連合野などの大脳皮質,大脳基底核,中脳,脳幹,小脳など脳の多くの領域が関与している(Goldbergetal,1991)。臨床神経学では,これらの領域に器質的,機能的障害があるとサッケードに異常が生じるために,サッケードは神経疾患の病態生理解明の一つの重要な指標とされてきた(Fletcher,Sharpe,1986;Hikosakaetal,1993;1995;Laskeretal,1987;Zeeetal,1976)。 しかしながら,パーキンソン病やアルツハイマー病のコントロールとなる正常な高齢者のサッケードの特徴を調べた研究では,サッケード潜時が遅れる点で一致した結果が得られているが,振幅と最大角速度については一貫しなかった(Abeletal,1983;Carteret al,1983;馬嶋ら,1981;Moschneretal,1994;Sharpe,Zackon,1987;Spooneretal,1980;蕨ら,1984;Wilsonetal,1993)。
著者
天野
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.157, 1992-02-01

鹿児島県小宝島.北緯29度線の少し北に位置し,鹿児島市からの交通機関は月に8往復する定期船だけ.所要時間は片道約13時間. 周囲3.2km,島民44人(全19世帯)自然のままの珊瑚礁が広がる,日本で“最後の海”に囲まれたこの島に,中田美津江さんは1991年5月,ボランティア看護婦として赴任した.
著者
平井 郁仁 高田 康道 佐藤 祐邦 高橋 晴彦 矢野 豊 高津 典孝 松井 敏幸 今村 健太郎 池田 圭祐 岩下 明德 宮岡 正喜
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.345-357, 2014-03-25

要旨 当科において診療したCrohn病(CD),潰瘍性大腸炎(UC),Behçet病患者(BD)を対象とし,生検および手術標本における病理組織学的所見の結果から,二次性アミロイドーシス(SA)合併の有無を検討した.CDに関してはデータベースを用いて患者数,臨床像,臨床経過および長期予後について解析し,さらにSA合併症例の詳細とSAの合併有無別の比較検討を加えた.IBD患者におけるSA合併率は1.1%(CD : 1.6%,UC : 0.3%,BD : 3.4%)であった.CD症例においては,(1) 診断では十二指腸病変の認識と生検が有用であること,(2) SA合併率は1.6%で,近年やや下降傾向であること,(3) 累積生存率はSA診断後50か月で79.5%,131か月で53.0%と生命予後が不良であること,(4) SA合併例は悪性疾患の既往の頻度が15.4%で非合併例より有意に高かったことが明らかとなった.
著者
齊藤 治 小島 敬史 寺西 務 中川 憲 萱澤 正伸 南里 昌史 江頭 由太郎 平田 一郎 勝 健一
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.1307-1312, 1999-09-25

要旨 患者は29歳の女性.1985年(14歳時)に下痢が出現.1986年に発熱,関節炎が出現し,大腸型のCrohn病と診断された.その後,steroid,salazosulfapyridineなどで治療されていたが,入退院を繰り返した.1993年5月には上行結腸の狭窄のため結腸唖全摘術を施行した.その後,salazosulfapyridineで治療されていたが,1997年2月には発熱,貧血,低蛋白血症で入院.腸管狭窄(回腸S状結腸吻合部およびその口側の回腸)のため回腸,S状結腸の部分切除術を施行した.1998年8月には貧血,低蛋白血症で入院.大量の蛋白尿を認め,ネフローゼ症候群を呈していた.腎生検の結果,アミロイド(AA型)の沈着を認めた.