- 著者
-
遠藤 匡俊
張 政
- 出版者
- 東北地理学会
- 雑誌
- 季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.1, pp.17-27, 2011-03-01
- 参考文献数
- 42
世界の狩猟採集社会の特徴の一つとして集団の空間的流動性があげられる。これまで複数の異なる民族を対象として流動性の程度を比較した研究例はほとんどみられなかった。本研究の目的は,アイヌとオロチョンを例に,集団の空間的流動性の程度を比較することである。分析の結果,以下のことが明らかとなった。集落共住率(<i>U</i>)を算出した結果,同一集落内に定住する傾向が強く集落を構成する家があまり変化しなかった紋別場所のアイヌでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9∼1.0である家の総家数に占める割合は73%ほどであった。一方,多くの家が集落間で移動する傾向が強く集落構成が流動的に変化していた三石場所のアイヌでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9∼1.0である家の総家数に占める割合は43%ほどであった。三石場所のアイヌと同様に,集落構成が流動的に変化していたオロチョンでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9∼1.0である家の総家数に占める割合は25%とさらに低く,0.1∼0.2の家は33.3%,0.3∼0.4の家は25%であった。13年間における集落共住率(<i>U</i>)の経年変化をみると,オロチョンの値は常に0.11∼0.33であり,三石場所のアイヌよりも下回っていた。アイヌの事例を1戸ずつ検討しても,集落共住率(<i>U</i>)の値が常に0.4未満であるような事例は1例もなかった。アイヌ社会のなかでも三石場所のアイヌ集落においては集団の空間的流動性が大きかったが,オロチョンの一家の場合にはさらに流動性が高かった可能性がある。