著者
佐藤 慎吾
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.23-39, 2008-03-28

本研究は, 衆議院富山県第三区を対象に, 当該議員の集票組織の分析から, 後援会の空間組織の地域的差異を導出し, その上で後援会の空間組織とその編成要因について検討した。<br>A議員の集票組織には, 職域別の政治団体が20, 地場企業やその関連組織の自民党職域支部が7, A議員が私的に組織した後援会が44存在した。このうち, 政治団体役員の居住地と自民党職域支部の所在地, および後援会の設置地域は高岡市に偏在していた。また, A議員の事務所と秘書も同様に高岡市に設置されていた。<br>とくに, 後援会は高岡市内に26あり, 小学校区を単位として編成され, 支持者への日常世話活動が強化されていた。この背景には, 高岡市が富山三区内最大の票田地域であるにもかかわらず, 都市的地域特有の流動層と同じ党派のライバル議員によって, A議員の相対得票率が比較的低い値で推移してきたことがある。<br>一方, 高岡市外の18の後援会は市町村を単位に配置されていた。これは, 市町村が住民意識に強い影響を及ぼしているだけでなく, 有力な集票組織である農協の管轄地域や系列県議の選挙区地域, さらには公共事業の執行地域とその見返りとしての票の集計地域である点とも深く関係していた。
著者
由井 義通
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.143-161, 2003-09-18
参考文献数
10
被引用文献数
3 7

本研究の目的は, 大都市圏における女性就業者の増加と彼女たちを取り巻く住宅問題から, 地域的背景や社会経済的背景に焦点を当てて都市空間のジェンダー化についてアプローチを試みることである。研究の方法として, 女性向け住宅情報誌に掲載されたマンション購入者の体験談の特徴からシングル女性の住宅購入の実態を解明することにした。<br>マンション購入体験談に掲載された女性たちの特徴は, 30歳代が約3分の2を占めており, 彼女たちの居住地は東京都心部の港区や西部や南部内の最寄り駅からの利便性の高い地域内で購入した人が過半数を占めている。シングル女性による住宅購入は, 女性の社会進出に伴う就業構造の変化などが関連しているとみられ, 大都市特有の現象であるといえる。しかし, マンション購入者が必ずしも高収入を得ているキャリア女性に限られていないのは, その背景に民間の賃貸住宅市場における家賃の割高感, 転居や契約更新の際に感じる契約更新料や敷金・礼金などに対する不満や, 単身者が共通して感じる老後の不安などが影響をもたらしている。また, 豊かな生活を求める傾向の中で, その生活行動の充実を求める場として住居を購入すると思われる。
著者
黒木 貴一 磯 望 後藤 健介 張 麻衣子
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.63-78, 2005-08-25
参考文献数
23
被引用文献数
1

2003年九州豪雨により, 福岡市の御笠川沿いの平野部は広く浸水した。JR博多駅周辺も, 1999年に続き再び浸水した。本研究では, JR博多駅周辺の浸水深の分布, 洪水堆積物の層厚分布, 洪水堆積物の粒度の分析結果から, 氾濫水の流下方向やその速さを推定し, 都市内の詳細な土地条件について論じた。<br>浸水範囲は, 地盤高におおむね支配され, 周囲より低い後背湿地にある。しかし, 都市の構造物にも強く影響を受けて, 氾濫水の流下方向, 浸水深, 洪水堆積物の層厚は多様である。御笠川から溢流した氾濫水は, JR博多駅および鹿児島本線に流れを阻まれ, その東 (上流) 側で広く湛水した。次に峡窄部となる鹿児島本線と交差する道路2箇所から西 (下流) 側へ流出した。浸水範囲には, 細粒土砂が堆積する湛水しやすい地域, 粗粒土砂が堆積する土砂の堆積しやすい地域, 土砂はあまり堆積しない氾濫水の流れやすい地域が区分できる。さらに土砂の堆積しやすい地域には, 自然堤防, 三角州, サンドスプレイ, 後背湿地の形成場に類似した土地条件地域を見出すことができた。このように, 都市化による人工的な地形改変により, 洪水特性を決める新しい土地条件が生み出されたことを本研究では示した。
著者
高木 亨
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.121-136, 2005-10-31
被引用文献数
1 1

本研究は, 醤油醸造業者の存立要因の一つとして消費者の醤油嗜好の地域性を想定し, 醤油の生産統計をもとに, 醤油生産の地域的な特徴について考察した。醤油の二大産地は千葉県と兵庫県であり, 千葉県産が関東地方で, 兵庫県産が関西地方で圧倒的なシェアを占めている。しかし, それらの周辺地域ではあまり高いシェアを占めてはいない。全国で広く生産されている醤油は,「濃口」,「本醸造」,「特級」であるが, その生産方式は一様ではなく, 同じ「濃口」でも東北, 北陸, 中国, 九州の各地方では「新式醸造」と「アミノ酸液混合」が多いなどの地域差がみとめられる。これは, 消費者の醤油嗜好の地域的差異の表れと考えられる。醤油の生産と流通の特徴を整理すると, 各都道府県は (1) 県内産醤油の割合が高い「県内産醤油優位型」, (2) 県内産醤油と県外産醤油との割合がほぼ等しい「県内・県外均衡型」, (3) 県外産醤油の割合が高い「県外産醤油依存型」の3つに大別できる。以上の検討から, 醤油嗜好の地域性の一端を明らかにすることができた。
著者
葛西 大和
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.75-93, 1997-01-01

一国の経済地域の構造は経済の構成と発展の地域的投影であるから,この経済地域の構造に現われた特質を分析することによって,その国の経済現象の地域的展開と連関にみられる特異性を把捉することができるはずである。本研究は,外国貿易の展開を日本の近代の経済地域構造にみられる「求心的構造」の形成を解明するための重要な要因であると考えて,1859年~1919年の開港場の設置経過と,各貿易港における貿易額のシェアを統計的に分析した。その結果,幕末から維新期に条約によって開港場に指定された貿易港が, 1859年~1899年の40年間,貿易を事実上独占していること,とくに横浜と神戸の占める割合が圧倒的であること,そして外国貿易の初期こそ開港指定の早い横浜が外国貿易をリードしたが,国内における資本制生産の発展過程で,明治20年代以降に神戸が,また30年代以降に大阪が貿易のシェアを大きく伸ばして,、関東沿岸と近畿沿岸の貿易港のシェアが括抗するような貿易港の地域的パターンが産業革命期に確立していることが,明らかとなった。キーワード:外国貿易,開港場,ヒンタ-ラント,工業立地,産業革命,経済地域
著者
野村 幸加 吉田 圭一郎
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.225-233, 2010-01-31
被引用文献数
1

本研究は,東京ディズニーランドに対して抱くイメージを,その対象者の地域的な背景,特に対象者との距離に着目して明らかにした。居住地の異なる大学生を対象に,SD法に基づいた評定尺度法調査を行い,因子分析を適用して,イメージの構成要素を抽出した。また,因子得点をもとに,東京ディズニーランドまでの距離によるイメージの差異を検証した。因子分析の結果から,東京ディズニーランドのイメージは,主に「心理的因子」,「視覚的因子」の2つの要素によって構成されていた。第1因子である心理的因子には,「わくわくする」「楽しい」など対象者の主観的な感情が表れており,第2因子の視覚的因子は「静か」「緑が多い」といった景観を客観的に捉えたものであった。スピアマンの順位相関係数によると,心理的因子は距離と関係があり,その理由としてカリギュラ効果が考えられた。また,訪問回数を介して距離が視覚的因子に影響を与えていると考えられた。
著者
杉浦 直 小田 隆史
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.157-177, 2009-09-15
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

本論文は,サンフランシスコ・ジャパンタウン(日本町)における一施設「ジャパンタウンボウル」の売却問題(2000年)及びその跡地に建った住・商混合施設「1600ウェブスター」への大手コーヒーショップ・チェイン「スターバックス」店舗進出問題(2005年)の経緯とそこにおける諸活動主体(アクター)間の対立を分析・検討し,それを通じてエスニック都市空間における場所をめぐる葛藤の性質・構造とその意味を考察したものである。このサンフランシスコ日本町における一連の場所をめぐる葛藤の過程のなかで最も強い対立を示したアクター関係は,日本町に進出を企てる外部資本と日本町諸組織との間であり,それは地価にふさわしい経済的開発と地域経済再編を志向する資本主義的都市過程とローカル・エスニック・コミュニティの維持・保全を志向するエスニックに意味付けられた特殊な都市過程との対立として捉えられる。そしてその意味を地理学的に考察するとき,上記の対抗関係はMerrifield (1993) が提示した資本による「想像された空間(conceived space)」とコミュニティの現実の「生きられた場所(lived place)」との対抗関係であり,それらの間の弁証法的調整の過程であると言うことができる。
著者
杉浦 直
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-23, 2007-04-30
被引用文献数
4 3

本論文は, カリフォルニア州サンフランシスコのジャパンタウン (日本町) における都市再開発事業の進展を, そこに絡む活動主体 (アクター) の動きと相互の関係に焦点をあてて分析し, 当該再開発の構造とエスニック都市空間の建造環境の変容におけるその役割を考察したものである。日本町が位置するサンフランシスコのウェスターン・アディッション地区は, 第二次世界大戦の後, 建造環境が荒廃し都市再開発の対象となった。実際の再開発はA-1プロジェクトとA-2プバロジェクトに分かれる。A-1プロジェクトにおいてはサンフランシスコ再開発公社 (SFRA) の強い指導の下に経済活性化優先のスラムクリアランス型の再開発が行われ, 日本町域では近鉄アメリカなどによる大型商業施設 (ジャパンセンター) の開発が行われた。A-2プロジェクトは少し性格を異にし, コミュニティ・グループの参与の下に再開発が企画・実施され, 日本町域では日系ビジネス経営者を中心に構成された日本町コミュニティ開発会社 (NCDC) による「4プロツク日本町」再開発が行われたほか, 日系アメリカ人宗教連盟 (JARF) による中低所得者向きの住宅も開発された。なお, プロジェクトの初期において草の根的コミュニティ・グループ (CANE) による立ち退き反対闘争が行われたことも特筆される。このような再開発を経てジャパンタウン域の建造環境は大きく変容したが, その変化はかつての伝統的な総合型エスニック・タウンからツーリスト向けのエスニック・タウンに在来の現地コミュニティ向けエスニック・タウンの要素が混在した複合型のエスニック・タウンへの変化であったと要約されよう。こうした変化は, 前述した諸アクターの相互関係によって規定される再開発の加構造がもたらした必然的な帰結と言える。
著者
岩鼻 通明
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-27, 1999-03-15
参考文献数
4
被引用文献数
2

本研究の目的は, 長野県戸隠村中社集落の観光地化について, 1975年までの10年間の動向を報告した第1報, および1985年までの10年間の動向を報告した第2報に引き続いて, 1985年から1995年までの10年間の動向を明らかにすることにある。<br>この10年間の動向として, 前半のバブル経済期は観光客数が急増したが, 後半の経済不況期に入って, 宿泊客数の減少傾向が顕著になりつつある。とりわけ, 1995年に発生した阪神大震災と豪雨災害の影響が大きい。それにともない, 高齢化を主たる理由に廃業する宿泊・飲食施設も現れ始め, これまで拡大の一途をたどってきた戸隠観光にも変化が生じつつあることが明らかになった。また, 併せて1998年に開催の長野五輪への期待や, スキー場とゴルフ場の必要性に関しても調査を行ったが, 総じて長野五輪への期待感には乏しく, ゴルフ場の誘致やスキー場の拡大についても消極的な意見が多くみられた。
著者
瀧本 家康
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.17-35, 2013-06-10
参考文献数
25

梅雨明け時の熱帯対流活動活発化領域の位置の違いと日本周辺域の高度場の変化との関係を検討した。<br> 1979年から2002年の24年間において,日本付近のOLRを指標に梅雨明けが明瞭な20年間の梅雨明け日を定めた。これらの年について,梅雨明け日前後のOLRの合成図を比較した結果,フィリピン付近と西部北太平洋で対流活動が活発化する年(WP型,2年),フィリピン付近で活発化する年(P型,7年),西部北太平洋で活発化する年(W型,5年),両地域で活発化が起こらない年(N型,6年)の4つの型があることがわかった。P, W, N型の梅雨明け時の高度場の変化を調査した結果,梅雨明けには① 熱帯からの定常ロスビー波および偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(P型),② 偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(N型),③ 太平洋高気圧の東への後退(W型),という3つの機構があることが明らかとなった。また,熱帯対流活動が活発化する領域の違いが梅雨明けの引き金となる熱帯からの定常ロスビー波の発生の有無に関係している可能性が示唆された。
著者
米地 文夫
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.267-284, 1995-12-01
参考文献数
40

明確な地名としての「東北」の初出を, 岩本 (1989など) は慶応4年7月の木戸孝允の建議書をその初現であるとし, 難波 (1993) は同年閏4月から太政官日記にみられるとしたが, 筆者は同年正月の久保田 (秋田) 藩主への内勅や, 2月の仙台藩主からの建白書に, 「東北」の語があることを見いだした。<br>岩本は「東北」を「東夷北秋」を約めたもので, 勝者が敗者に押し付けた地名とした。しかし「東夷北秋」の略は「夷秋」で, 当時は欧米を意味していた。また朝廷側が味方の秋田藩を「東北の雄鎮」と呼んだり, 奥羽側でも自らをも含めて「東北列藩」と呼んだりしており,「東北」に蔑視的な意味は無かった。この「東北」は, 東海, 東山, 北陸の三道全体, すなわち東日本の意味で, 現東北6~7県地域を指すものではなかった。明治初年のこの広義の「東北」は当時の歴史教科書にはみられるが, 地理教科書にはほとんど登場しなかった。
著者
伊藤 晶文
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-18, 1999-03-15
参考文献数
25
被引用文献数
2 6

宮城県北東部に位置する北上川下流沖積低地を対象に, ボーリング資料解析, FeS<sub>2</sub>含有量分析, <sup>14</sup>C年代測定結果に基づいて, 完新世における内湾の拡大過程および埋積過程を復元し, 当低地の形成過程を考察した。とくに内湾の埋積過程については, 各時代の海岸線背後における河道の位置を復元することを目的の一つとして復元を試みた。<br>北上川下流沖積低地は, 従来想定されていた南北に連なる一連の埋没谷の埋積により形成された低地ではなく, 海水準が-7mに達した7,500年前までは, 三つの個別の埋没谷を埋積する低地であったことが明らかとなった。7,500年前以降の海水準上昇に伴い, 内湾の拡大によって一つの連続する水域となった。本地域にあった内湾は, そのうち最大め流域面積をもつ北上川によって大部分が埋積され, 支流迫川は埋積にはほとんど関与していないことが明らかとなった。
著者
林 秀司
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.126-138, 1998-06-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 3

近年育成されたいくつかの水稲うるち米の良食味品種の普及を, GISソフトの Arc/Info を使って作成した作付比率の分布図を用いて, 地域的普及の視点から明らかにした。<br>多くの品種の普及地域は育成道府県に限定されているが, あきたこまち, キヌヒカリ, ヒノヒカリ, ひとめぼれは比較的広範囲に普及した。あきたこまち, ヒノヒカリ, ひとめぼれには育成県とその周辺で高い普及率を示す距離減衰的な普及パターンを示すと同時に, 飛地的な普及パターンが認められた。一方, キヌヒカリは明確な普及の中心がみられず, 分散的に普及した。このような水稲品種の普及には, 奨励品種の指定等の政策的要因が影響していることが考えられる。