著者
藤野 靖久 藤田 友嗣 井上 義博 小野寺 誠 菊池 哲 遠藤 仁 遠藤 重厚
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.304-310, 2009-06-15
参考文献数
13

除草剤のラッソー乳剤<SUP>®</SUP>を自殺目的で服毒し、短時間のうちに塩化ベンゼンによると考えられる全身痙攣,循環不全等を呈して死亡した症例を経験した。症例は52歳の男性で,うつ病のため通院中であった。自宅で倒れているところを発見され,救急要請。近くに空のラッソー乳剤<SUP>®</SUP> 500 ml入りの瓶が落ちており,服毒自殺による急性薬物中毒の疑いで搬送された。意識レベルはJCS 200,GCS 4(E1V1M2)であった。胃洗浄,活性炭・下剤を投与し,輸液等にて加療開始したが,発見から約12時間後より全身痙攣を発症し,痙攣のコントロール困難となり,頭部CTでは著明な脳浮腫を認めた。更に血圧低下を認め,昇圧剤にも反応しなくなり,発見から約22時間後に死亡した。当科搬入時のアラクロールの血清中濃度は8.0μg/ml,塩化ベンゼンは17.8μg/mlであった。ラッソー乳剤<SUP>®</SUP>は主成分がアニリン系除草剤であるアラクロール(43%)で,溶媒として塩化ベンゼンが50%含有されている。アニリン系除草剤中毒ではメトヘモグロビン血症を起こすことが知られているが,本症例では認められなかった。溶媒である塩化ベンゼン中毒では,肝・腎障害の他に脳障害や循環不全がある。本症例のように早期に死に至る大量服毒例では,塩化ベンゼンによる脳障害や循環不全が主な死因になると推測された。

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