著者
小山 良太
出版者
富民協会
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.421-430, 2013-03-25
参考文献数
14

2011年の3.11から2年が経過しようとしている。福島県は津波・地震に加え原子力災害とその延長上にある「風評」問題に晒され続けている。事態は収束するどころかある面では拡大していると言っていいかもしれない。福島県農業における原子力災害の影響について,全国的な報道は減少しているし,本当の現状はあまり伝わっていないと感じている。先日も東京で行われたある会議で,「放射能に汚染されているのに農業を続ける福島の農家は身勝手だ」との発言を受け,怒りどころかただ落胆した。いわゆる風評被害である。風評被害という言葉を文字通り解釈すると本当は安全なのに噂を信じて買わない消費者が被災地の農家に被害を与えているという意味になる。果たしてそうだろうか。消費者も含め放射能汚染対策の不備に翻弄されるものすべてが被害者である。原発事故の影響で放射性物質が拡散した地域は福島県に限らない。しかし2年経った今でも,各農地の放射性物質含有量は測られていない。政府による詳細な放射能汚染マップが未だに作成されていないのである。検査体制も出荷前・流通段階でサンプル検査(福島の米のみ全袋検査)をするという体制であるが,店舗で売られている農産物そのものの放射性物質含有量はわからない状況である。事故後,筆者はチェルノブイリ原発事故で汚染されたべラルーシの農業調査を2回実施した。ベラルーシでは農地の汚染マップをもとに汚染度の高低に合わせてサンプル数を変える。または栽培する農産物を変える(新産地形成)などの対策をとることで検査体制の精度を上げていた。これにより基準値を超える農産物は流通しなくなり,生産段階でもゼロベクレルにちかい営農が可能になっている。このような対策を施して初めて信頼関係が再構築され,それが安全性の確認,安心感に繋がるのである。すなわち風評被害の解消には,放射能汚染の損害状況の確認(農地の汚染マップ)と安全検査体制の体系化(汚染度に合わせた対策)が必要であり,これには農家やJA,自治体の自助努力だけでは太万打ちできない。政府の唯一の役割と言っていい放射能汚染問題に関する法令の整備が未だになされていないのである。そこで本稿では,放射能汚染地域における農産物の生産・流通段階の安全検査に関して,ベラルーシ共和国と日本の対応を比較検討した上で,農地の汚染マップ(作付可否認証制度)と安全検査体制に関する4段階検査モデル((1)全農地汚染マップ,(2)農地・品目移行率,(3)出荷前本検査,(4)消費地検査)を提示する。このような体系立てた現状分析がなされない限り実践的な復興計画(除染計画を含む)の策定は不可能であり,汚染地域における混乱の最大の原因はこの点にあるといえる。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 原発事故と地域農林業 : チェルノブイリと福島原発事故における放射能汚染マップと食品検査(小山 良太),2013 https://t.co/vAIjgakuHn

収集済み URL リスト