著者
吉野 耕作
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.384-399, 1994

従来のエスニシティ、ナショナリズム研究では民族 (ethnic/national) のアイデンティティ、シンボルが「生産」される側面に偏っており、「消費」の視点が欠けていた。本稿では消費行動を通して民族性が創造、促進される様子を考察する。特に、グローバル化が進行する消費社会において文化の差異を商品化して成立する「文化産業」が、ナショナリズム (エスニシティ) の展開に果たす役割に焦点をあてる。社会によっては民族の独自性の表現方法が異なるために、文化産業は異なった現れ方をするが、抽象的 (全体論的) かつ「文化人類学主義」的な表現方法が顕著な日本と、これとは対照的な具象的 (制度論的) かつ文化遺産保護主義的なイギリスにおける事例を中心に論じる。具体的には、まず、日本において文化の差異に関する「理論」 (日本人論) がマニュアル化され、大衆消費されることによって文化ナショナリズムが展開する過程を考察する。次に、ツアリズムにおける消費を意識する形でナショナル・ヘリテッジ、伝統が「創造」され、その過程の中で民族意識・感情が促進される状況をイギリスの「ヘリテッジ・インダストリー」に見る。いずれの場合も、消費市場を舞台として文化を大衆商品として消費者に提示する「文化仲介者」の役割が浮び上がるが、グローバル化する現代消費社会におけるエスニシティとナショナリズムの新しい担い手として注目する。

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"ナショナル・ヘリテッジに関して、ヒューイソンは「個々に見ると、博物館は保存、教育、真理に専念する立派な制度なのだが、集合的に見るとその数の増加はこの国(イギリス)の想像力の死を意味する」" →ブクマ

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