著者
上野 千鶴子 盛山 和夫 松本 三和夫 吉野 耕作 武川 正吾 佐藤 健二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

新しい「公共性」の概念をめぐって、公共社会学の理論的な構想を提示し、「自由」や「感情公共性」その応用や展開の可能性を示した。福祉とジェンダーについては定量および定性のふたつの調査を実施し、報告書を刊行した。その調査結果にもとづいて、福祉多元社会における公共性の価値意識を比較検討し、さらた具体的な実践の可能性を求めて、地域福祉、住民参加、協セクターの役割、福祉経営、ケアワークとジェンダー等について、経験データにもとづく分析をおこなった。ジェンダーと階層をめぐって、少子高齢社会と格差問題について、高齢者の格差、若年世代の格差、少子化対策とジェンダー公正の関係等についても、経験データにもとづいて、比較と検証をおこなった。福祉社会については、「自立」と「支援」のその理念をめぐって、その原理的な検討と歴史的な起源についても検討を加えた。文化と多元性の主題では、多文化主義と英語使用の問題、文化資源学における公共性、公共的な文化政策の実態と問題点について、研究を行ったほか、近代における宗教と政治の位置についてもアプローチした。また営利企業における公共性とは何かというテーマにも切り込んだ。環境については地球環境問題における「環境にやさしい」技術の関連を社会学的に分析し、新しい知見をもたらした。詳細は、科研費報告書『ジェンダー・福祉、環境、および多元主義に関する公共性の社会学的総合研究』を参照されたい。チームでとりくんだ4年間の成果にもとづき、現在東京大学出版会から『公共社会学の視座(仮題)』 (全3巻)をシリーズで年内に刊行するよう準備中である。
著者
吉野 耕作
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.392-407,505, 1987-03-31 (Released:2009-11-11)
参考文献数
45

近代社会学の予測に反して民族の復活、活性化が世界各地で起こったが、その理由、背景を説明するために、民族の概念・理論の洗い直しをめぐり激しい論争が展開されてきた。しかしながら、同論争は必ずしも建設的な成果をあげている訳ではない。分析次元の違いを認識することなく相互批判を繰返す結果、議論が?み合わない形で進んできた。本稿では、民族をめぐる論争の三つの異なる分析次元を判別し、各次元で対立する視点を論理整合的に組み合わせることにより論争の流れを批判的に整理する。具体的には、<原初主義-境界主義>、<表出主義-手段主義>、<永続主義-近代主義>の三つの対立視点の対にまとめ、また諸視点間の適合性を明らかにすることにより、多元的な諸理論を整理する枠組を提示する。その過程で「民族の復活」をめぐる議論に内在する弱点を幾つか発見することになるが、そのひとつは、民族の絆の耐久性を説明する上で時・空のいずれか一方の次元に固執するために説明を不十分に終わらせている点にある。本稿では、この根本的と思われる論点に限定した上で、両説明方法の補完性、結び付きを示す視角を「伝統の創造」の過程に求め、論点の補充を行う。
著者
吉野 耕作
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.384-399, 1994

従来のエスニシティ、ナショナリズム研究では民族 (ethnic/national) のアイデンティティ、シンボルが「生産」される側面に偏っており、「消費」の視点が欠けていた。本稿では消費行動を通して民族性が創造、促進される様子を考察する。特に、グローバル化が進行する消費社会において文化の差異を商品化して成立する「文化産業」が、ナショナリズム (エスニシティ) の展開に果たす役割に焦点をあてる。社会によっては民族の独自性の表現方法が異なるために、文化産業は異なった現れ方をするが、抽象的 (全体論的) かつ「文化人類学主義」的な表現方法が顕著な日本と、これとは対照的な具象的 (制度論的) かつ文化遺産保護主義的なイギリスにおける事例を中心に論じる。具体的には、まず、日本において文化の差異に関する「理論」 (日本人論) がマニュアル化され、大衆消費されることによって文化ナショナリズムが展開する過程を考察する。次に、ツアリズムにおける消費を意識する形でナショナル・ヘリテッジ、伝統が「創造」され、その過程の中で民族意識・感情が促進される状況をイギリスの「ヘリテッジ・インダストリー」に見る。いずれの場合も、消費市場を舞台として文化を大衆商品として消費者に提示する「文化仲介者」の役割が浮び上がるが、グローバル化する現代消費社会におけるエスニシティとナショナリズムの新しい担い手として注目する。
著者
吉野 耕作
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.20, pp.2-12, 2007-07-31 (Released:2010-04-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1 2

This article critically enquires into prevailing discourses on the rise of nationalism among the youth in Japan and proposes a sociological approach to an understanding of the situation involving them. Given the lack of sociological studies on this subject, empirical research is essential in order to understand the situation regarding youth and nationalism in present-day Japan. I have had valuable experiences of reflecting on the issue with students in university courses, who themselves conducted social research on the subject. The article reports two of such efforts. One is an attempt to look into the nature of problems of mass media in the creation and dissemination of discourses on the rise of nationalism. The other identified social processes that could generate nationalism such as those involved in the invention of the seemingly patriotic cheering style among soccer supporters. The article concludes with theoretical considerations, in which market-generated nationalism is contrasted with state-initiated nationalism.