- 著者
-
島内 英俊
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 東北大学歯学雑誌 (ISSN:02873915)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.2, pp.91-107, 2000-12
近年の細胞生物学ならびに分子生物学の進歩により, 様々な細菌あるいはウイルス感染症に対して新たなコンセプトに基づいたワクチン療法が開発されてきた。これらの次世代型のワクチンとしては, ペプチドワクチン, 粘膜ワクチン, 抗イディオタイプワクチン, DNAワクチン, 食べるワクチン(edible vaccine)および受動免疫が含まれる。歯周治療あるいは予防のための新たなワクチン療法開発の可能性ならびにその戦略について考察を行った。歯周病は口腔内において最も広くみられる細菌感染症であるが, 最近の研究報告によれば冠状動脈血管血栓症や糖尿病などの様々な全身疾患のリスク因子であることが示唆されている。これらの結果は口腔ケアの重要性を強調するものであり, ワクチン開発の口腔感染症予防に果たす意義を示すものである。数多くの研究結果から, Actinobacillus actinmycetemcomitansとPorhyromonas gingivalisが主たる歯周病原性細菌と考えられており, これらの細菌由来の菌体表層抗原が歯周病ワクチンの免疫原となりうる。われわれはP.gingivalis線毛をアジュバントとともにマウスに経口投与することにより, 血中のみならず唾液中に高レベルのIgGならびにIgA抗体産生を誘導することをすでに明らかにしている。また線毛サブユニットの部分ペプチドはin vivoにおいて防御反応を誘導することから, 線毛あるいはその部分ペプチドを用いた粘膜ワクチンが歯周病ワクチンとして有用である可能性が示唆される。遺伝子工学を応用したDNAワクチンや受動免疫法も歯周病ワクチンのストラテジーとして候補となりうることも示されている。近年の分子生物工学の発達は, 歯周病巣局所における宿主一細菌相互作用の解明を急速に進めてきたが, 我々もP.gingivalis由来の線毛やLPSが樹状細胞の活性化を介して病巣局所における免疫応答を調節している可能性を示すデータを得ている。しかしながら, 歯周病原性細菌に対するワクチン療法を含め, 歯周病を駆逐していくための新たな治療法の開発にはさらなる研究が必要と考えられる。