著者
石幡 浩志 庄司 茂 島内 英俊
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は齲蝕等の病変および補綴学的要求により、歯科学的術式によって歯の歯髄が除去された状態、すなわち失活歯の内部に生ずる歯髄腔内に、微小な無線通信媒体を設置し、これに内蔵したセンサーによって生体内情報を計測する基本的手法を確立することである。今年度は動物(犬)を用い、実際に歯内に無線通信媒体(RFID)を埋設し、埋設した装置と実際の通信が可能であるかどうかを検証した上、その耐久性と生体に対する安全性を評価し、さらにこれらの手法を実際の生体計測に利用するための具体例を提示した。まず、生体内に設置した無線ICタグ通信媒体との通信を想定し、制御を実施するために用いる電波として、硬組織および軟組織を同時に透過しうる短波領域を用いた。この帯域をカバーするRFIDチップ(ISO/IEC15693 chip 13.56MHz : SRF55V10S, Infineon Technologies)をもとに無線ICタグを顕微鏡下にて製作した。ビーグル犬の右側犬歯を抜髄、根管充填を実施したのち、試作ICタグを根管内に埋設した。リーダー(FPRH100, 500mW, Feig, Weilburg, Germany)と試作ICタグとの通信距離は口腔内への設置前で30mm、設置後はおよそ25mmであり、短波領域では、軟組織、硬組織を通じて生体が著明なバリアーとはならなかったことが示された。一方で、埋設された通信媒体は一両日後には機能を停止した。口腔内にRFID等の無線通信媒体を設置する手法は確立したと思われるが、これを長期にわたって運用するには埋設する無線通信媒体に高度の耐久性を備える必要があると思われる。口腔内に設置した無線通信媒体を用いた生体計測として、温度、pH、圧力等を利用することが挙げられる。本研究では、歯周外科治療の歯周組織の治癒および組織再生を促すための術後におけるリハビリテーションを効果的に行うために、これら無線ICタグを生体内に設置する方法が有意義であると考え、実際に生体にレーザー照射による物理的刺激を加えた際の生体反応をシミュレーションし、生体内に設置した計測システムの利用法を模索した。その結果、生体に可視短波長領域(緑色)レーザー照射実施すると、抗アポトーシス効果が生ずることが明らかとなった。すなわち、歯周治療における組織の細胞死を抑止する手法としてのレーザー照射が有用であり、その際、歯周組織生体に対するレーザー光の照射量を正確に計測する方法およびその後の組織反応を経時的に把握するため、無線通信媒体を歯周組織内に設置する手法が有用であると思われた。
著者
石幡 浩志 島内 英俊 静谷 啓樹 安田 一彦 庄司 茂 山田 志保子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ISO/IEC15693におけるRFIDの通信周波数は短波帯(13.56MHz)であり,この帯域の電波については生体軟組織を通過することは既に確認されている。本研究以前に、本研究実施者の研究により、歯の内部に無線ICタグが格納された際,比較的電子密度の高い硬組織を電波が通過できる可能性について、中波帯の小型RFIDタグを用い,これをヒト抜去歯内部に格納した際の影響は、5パーセント未満の通信距離の減少にとどまり、少なくともRFIDをヒトの歯の内部に格納しても,外部にあるリーダーとの通信にはさほど影響を与えないことがわかった.そこでまず本研究では、SUICAやエディなどのセキュリティ機能を持つRFIDが使用される周波数帯である13.56MHzにおけるRFIDの口腔内設置を念頭に、ISO/IEC15693(近傍型)RFIDを用いて,直径3mm,長さ8mmの小型無線ICタグを作成,埋め込み前の状態で3cmの通信距離を確保した.これをビーグル犬における歯内療法を実施した犬歯歯髄腔内部に設置したところ,約0.5W出力を有するハンディリーダ・ライター(FPRH100:マイティーカード株式会社)を用いて,口腔周囲組織を介して顔面側方部から口腔外にあるリーダーと通信可能であることが実証された。そしてその際の通信距離は2.5cmと推定された.さらに、この試作したRFIDが口腔内に設置された状態で、携帯電話に内蔵したリーダー通信を実施するため、リーダーの小型化を実施したところ、幅1cm、長さ3cm厚さ2mmのアンテナから、口腔内にあるRFIDへの通信が可能となった。携帯電話と口腔内に設置したRFIDの通信はステルス性が高く、セキュアな本人確認に威力を発揮すると見られるが、充分な通信距離を確保し,かつ情報漏洩を防止する観点から,通信距離を10cm程度にコントロールするのが適切と思われる.
著者
玉澤 かほる 玉澤 佳純 島内 英俊
出版者
一般社団法人日本医療機器学会
雑誌
医療機器学 (ISSN:18824978)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.537-542, 2014 (Released:2015-01-23)
参考文献数
19
被引用文献数
3

The purpose of this study is to assess airborne contamination of the dental operating room (DOR) in order to evaluate the risk of infection for the patients and dental staff. To examine DOR, a total of 744 air samples (0.01 Cubic Feet) collected in the particle counter hourly in 24 times a day for 31 days was used. Further, we investigated the change in the particle during tooth preparation (TP) with a highspeed hand-piece when using or not suction device. The results were as follows: 1) In almost all time from 9:00 to 17:00, the number of 1.0μm, 2.0μm and 5.0μm particles in the treatment days (20 days), were significantly (Welch’s t-test, p<0.05) greater than the closing office day (11 days). 2) The particle of 0.3μm, 0.5μm, 1.0μm, 2.0μm and 5.0μm during TP as compared to before TP, increased by 7.5 times, 50.0 times, 158.9 times, 144.6 times and 47.7 times, respectively. When using the intra-oral suction(IOS), these particles were remarkably reduced. When using the IOS and the extra-oral suction (EOS), 2.0μm and 5.0μm particles were further reduced to the level before TP, and were significantly (paired t-test, p<0.05) reduced compared to IOS alone.
著者
島内 英俊
出版者
東北大学
雑誌
東北大学歯学雑誌 (ISSN:02873915)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.91-107, 2000-12

近年の細胞生物学ならびに分子生物学の進歩により, 様々な細菌あるいはウイルス感染症に対して新たなコンセプトに基づいたワクチン療法が開発されてきた。これらの次世代型のワクチンとしては, ペプチドワクチン, 粘膜ワクチン, 抗イディオタイプワクチン, DNAワクチン, 食べるワクチン(edible vaccine)および受動免疫が含まれる。歯周治療あるいは予防のための新たなワクチン療法開発の可能性ならびにその戦略について考察を行った。歯周病は口腔内において最も広くみられる細菌感染症であるが, 最近の研究報告によれば冠状動脈血管血栓症や糖尿病などの様々な全身疾患のリスク因子であることが示唆されている。これらの結果は口腔ケアの重要性を強調するものであり, ワクチン開発の口腔感染症予防に果たす意義を示すものである。数多くの研究結果から, Actinobacillus actinmycetemcomitansとPorhyromonas gingivalisが主たる歯周病原性細菌と考えられており, これらの細菌由来の菌体表層抗原が歯周病ワクチンの免疫原となりうる。われわれはP.gingivalis線毛をアジュバントとともにマウスに経口投与することにより, 血中のみならず唾液中に高レベルのIgGならびにIgA抗体産生を誘導することをすでに明らかにしている。また線毛サブユニットの部分ペプチドはin vivoにおいて防御反応を誘導することから, 線毛あるいはその部分ペプチドを用いた粘膜ワクチンが歯周病ワクチンとして有用である可能性が示唆される。遺伝子工学を応用したDNAワクチンや受動免疫法も歯周病ワクチンのストラテジーとして候補となりうることも示されている。近年の分子生物工学の発達は, 歯周病巣局所における宿主一細菌相互作用の解明を急速に進めてきたが, 我々もP.gingivalis由来の線毛やLPSが樹状細胞の活性化を介して病巣局所における免疫応答を調節している可能性を示すデータを得ている。しかしながら, 歯周病原性細菌に対するワクチン療法を含め, 歯周病を駆逐していくための新たな治療法の開発にはさらなる研究が必要と考えられる。
著者
篠田 壽 竹山 禎章 荘司 佳奈子 島内 英俊
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

強力な骨吸収抑制薬として知られる一連のビスホスホネート(BP、BPs)系化合物の中から8種のBPsを選び、歯周病治療薬として、どのBPが最も高い可能性を有するかについて種々の検討を行った。その結果、(4-メチルチオフェニル)チオメタンビスホスホネート(TRK-530)に高い可能性が見出されたので、このBPを中心にその薬理作用、作用機序、安全性について検討し、概ね以下の結論を得た。1.TRK-530は、LPS, PGE2,IL-1等による骨吸収の促進を、用量依存的に抑制した。2.現在、骨粗髪症治療薬あるいは高カルシウム血症治療薬として最も広く使用されている窒素含有BPs(N-BPs)は、LPS刺激によるPGE2産生の増加を用量依存的に増強するのに対して、TRK-530はこれを用量依存的に抑制した(マウス頭蓋冠骨器官培養系)。その機序は、抗酸化作用に基づくCOX-2の発現抑制に基づくものと推測された。3.N-BPsは、骨芽細胞系のセルラインにおいて、アルカリホスフアターゼ活性を抑制するのに対して、TRK-30は、用量依存的に増加させた。4.ラットやウサギの歯槽骨に局所投与したTRK-530は、投与部位の骨密度と骨量を著明に上昇させた。5.全身的あるいは局所的に投与したTRK-530は、ラットの実験的歯周炎モデルにおいて用量依存的に歯槽骨の吸収を抑制し、歯周組織の破壊を抑制した。6.BPsの副作用の一つとして報告されている抜歯後の骨壊死に関して、ラット抜歯窩の修復に及ぼす効果を検討した。N-BPsの一つであるゾレドロネートの大量全身投与は、抜歯窩の修復を遅らせるのに対して、TRK-530にはそのような作用は認められず、むしろ修復を促進する傾向が見られた。以上、本研究により、TRK-530は、多くのBPsの中でも歯周病治療薬としての比較的優れた性質を有することが示唆された。