- 著者
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荒木 詳二
- 出版者
- 群馬大学
- 雑誌
- 群馬大学社会情報学部研究論集 (ISSN:13468812)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, pp.39-56, 2003-03-31
ある対話でスイスの牧師の息子フリードリヒ・デュレンマットは、再洗礼派のテーマは彼にとって、大きな生涯を貫くテーマだと語った。スイスで生まれた再洗礼派の宗教運動は広がっていって、1534年にはミュンスターにいわゆる新イェルサレム王国が創られた。そこでは財産共同体や一夫多妻などの実験的な制度が導入された。このミュンスターの千年王国のことを、フリードリヒ・デュレンマットは彼の劇作品で二度描いた。その作品は『そは録されてあり』と『再洗礼派』である。この論文では、デュレンマットがどのように資料を採用し劇化したかが分析される。結論として、確認されるのは以下のことである。デュレンマットはかなり変更した書物を数冊読んだだけで、人物も筋も自由に創造したこと。次に彼のさまざまな実験的な手法を駆使した上記の悲喜劇作品は、過去においても現在においても、作品を理解・解釈し、当時の社会に対する彼の批判を読み取るには、あまりに凝りすぎていたし、凝りすぎていることである。