- 著者
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稲垣 伸一
- 出版者
- 山梨英和大学
- 雑誌
- 山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, pp.98-82, 2001-02-28
1840年代のアメリカ合衆国では、フランスの社会改革思想家シャルル・フーリエの思想が輸入され、ファランクスと呼ばれる実験的共同社会が各地で形成された。また1848年フォックス姉妹によりラッピングと呼ばれる霊との交信が報告されて以来、スピリチュアリズムと呼ばれる思想が流行した。この二つは奴隷制廃止や初期のフェミニズム思想など社会改革思想を共有し、まだ現代的意味における「科学」という概念が確立されていなかった当時、現代的意味での科学と疑似科学による経験的実証主義をもってそれら改革思想の正当性を主張した結果、互いが関連しあいながら19世紀半ばのアメリカにおける社会改革運動の一翼を担ったと考えられる。一方、ナサニエル・ホーソンの小説The House of the Seven Gablesでは、こうした社会改革運動の特徴を反映して、複数の登場人物により「科学的」改革思想のレトリックが反復される。本稿では,科学的言説と結びついた改革思想を作品より抽出し、フーリエ主義とスピリチュアリズムが協調して提示した理想の社会実現に向けての展望をこの作品から考察していく。