著者
稲垣 伸一
出版者
早稲田大学史学会
雑誌
史観 (ISSN:03869350)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.1-19, 2016-09
著者
稲垣 伸一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.170-158, 1995-12-10

19世紀末アメリカの消費社会では、人々の購買意欲を刺激して消費へと向かわせるさまざまな戦略が登場した。その代表として挙げられるのが、豊富な商品を分類し、効果的に照明をあててショーケースの中に入れたデパート、さらにその展示の場を印刷物に移したカタログ商法である。消費社会の中で商品は必要に迫られて購入されるより、展示の方法や広告によってイメージが増幅させられた結果購入されるものへとその性質が変えられていく。言い換えれば商品はその本質的価値のために実用に供されるのではなく、豊かさや知的満足などへの欲求を充足するものとして流通し、人々の欲望を刺激する記号へと変化した。ヘンリー・ジェイムズの『ポイントンの蒐集品』では、集められた美術品や骨董品がそれ自体の価値よりも、登場人物たちの共通のコードの中で負わされた役割ゆえに争われると考えられる。本稿では、登場人物により意味が変化させられる蒐集品の性質を消費社会という文脈の中で読み、同時にそこに込められた作者ジェイムズのアメリカ消費文化に対する感情についても検討していく。
著者
稲垣 伸一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.98-82, 2001-02-28

1840年代のアメリカ合衆国では、フランスの社会改革思想家シャルル・フーリエの思想が輸入され、ファランクスと呼ばれる実験的共同社会が各地で形成された。また1848年フォックス姉妹によりラッピングと呼ばれる霊との交信が報告されて以来、スピリチュアリズムと呼ばれる思想が流行した。この二つは奴隷制廃止や初期のフェミニズム思想など社会改革思想を共有し、まだ現代的意味における「科学」という概念が確立されていなかった当時、現代的意味での科学と疑似科学による経験的実証主義をもってそれら改革思想の正当性を主張した結果、互いが関連しあいながら19世紀半ばのアメリカにおける社会改革運動の一翼を担ったと考えられる。一方、ナサニエル・ホーソンの小説The House of the Seven Gablesでは、こうした社会改革運動の特徴を反映して、複数の登場人物により「科学的」改革思想のレトリックが反復される。本稿では,科学的言説と結びついた改革思想を作品より抽出し、フーリエ主義とスピリチュアリズムが協調して提示した理想の社会実現に向けての展望をこの作品から考察していく。
著者
佐藤 亨 奥田 良二 稲垣 伸一 佐藤 郁
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は19世紀におけるアイルランド移民について、大西洋をはさんだ4地域(南北アイルランド、アメリカ合衆国、カナダ)を取り上げ、多くの移民を送り出した「移民大国」アイルランドの移民前夜の状況、そして多くの移民を受け入れた「移民国家」カナダとアメリカ合衆国両国におけるアイルランド移民の影響を、さらには移民たちが外国に定住した後に祖国アイルランドに与えた影響を、歴史的・文化的・宗教的に検証し、「移民大国」と「移民国家」の内実を相互関係のうちに探求したものである。具体的には次の3点において明らかにした。(1)南北アイルランドにおける移民排出の歴史的背景についての考察(2)北米大陸にアイルランド移民が及ぼした社会的・文化的影響についての考察(3)移民を通してみたアイルランドと北米大陸の両地域の相互関連性についての考察。本研究の対象は大西洋をはさむ4地域であり、下記のように4人の研究者がそれぞれ一つの地域を担当する。南アイルランドからの移民(奥田良二)、北アイルランドからの移民(佐藤亨)、アメリカ合衆国への移民(稲垣伸一)、カナダへの移民(佐藤郁)。以上が担当地域であるが、研究方法や一次資料として用いたテキストは、統計(数値)をもとにした分析もあれば、詩や小説などの文学テキスト、あるいはソングなど多岐にわたる。なお、各研究者によって地域分担が決まっているものの、地域を横断するものが移民であるゆえ、南・北アイルランド担当者が北米大陸について、そして北米大陸担当者が南・北アイルランドについて言及した場合もある。また、本研究の成否は、各地域の研究を有機的に関連付けられるかどうかにかかっており、次の3点の具体的な作業を前提としたものである。(1)各地域についての先行研究(二次資料)の収集・読解(2)各地域における現地調査、及び一次資料の収集・読解・データベース化(3)研究者間の日常的な情報交換と定期的な研究会の実施。
著者
稲垣 伸一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.132-122, 1997-12-10

ヘンリー・ジェイムズ『カサマシマ公爵夫人』は、不幸な出生の秘密を持ち自らのアイデンティティーを獲得しようとする主人公の苦悩の物語である。彼の苦悩する姿からは他の登場人物との間で互いが相手を見るという交錯する視線の関係が認められる。そしてその互いの視線によりある種の権力関係と、見る対象のフィクション的要素を読み取ることができる。一方この作品は技法上自然主義的要素と同時に全知の語り手の不在という特徴を持つ。これらは作者が作品内で身をおく位置つまり視点の問題を提示する。本稿では、テーマと形式両面に認められる視線をめぐる問題について検討しながらフィクションと現実認識の関係について考察していきたい。
著者
稲垣 伸一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.140-129, 1998-12-10

ハリニット・ビーチャー・ストウは『妻と私』の中で、女性が家庭で担う役割の重要性を説き、スビリチュアリストでフリーラヴ思想を持っていたヴィクトリア・ウッドハルを嘲笑的に描いた。一方『妻と私』出版の翌年ウッドハルは、ストウの実弟ヘンリー・ウォード・ビーチャーの密通事件を自ら発行する雑誌で暴露し、結婚制度の欺瞞性とフリー・ラヴ思想の正当性を主張した。本稿では、家庭における女性の役割の重要性と結婚制度不要論という表面上対立する主張を、19世紀後半のアメリカにおける女性読者層の増加とそれに伴う出版市場の拡大という現象と、カルヴィニズムに対して不安を抱いた人々の意識という二つの点から検討する。そして二つの主張がいずれもフェミニズム的社会改革を志向しながら、一方は穏健な、他方は急進的思想へ発展していった事情を考察する。
著者
稲垣 伸一
出版者
早稲田大学史学会
雑誌
史観 (ISSN:03869350)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.1-19, 2016-09