- 著者
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渡部 直樹
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.1, pp.143-170, 2000-04
ゲーム理論は,行為者にとっての状況を理念的に再構成することで,行為者の選択を説明するものである。近年の進化論的ゲーム理論の誕生以来,協調的な制度や規則の説明がより容易になってきた。協調的な関係を分析する場合,以前より注目されていた問題は,囚人のジレンマ・ゲーム状況で,外的な拘束力なしで協調関係が出現し,維持できるかということであった。多くの研究者がこの問題に取り組んだが,その中で最も高い評価を受けたのが,アクセルロッドの研究であった。彼はESSに近似した集団安定性という観点から,常にフリー・ライディングが存在する問題状況でも,「シッペ返し」という協調的な規則が自生的に集団安定(ESS)になると主張した。しかし当稿では「シッペ返し」も少数では,「全面裏切」が支配する集団には侵入が困難であると明確にされた。一方,タカ-ハト・ゲーム(チキン・ゲーム)は,フリーライディングのインセンティブの下でも協調関係が可能な問題状況である。この状況下で協調的な慣習・規則が,自生的に出現できることを示したのが,サグデンの「自生的秩序」の議論である。この議論はナッシュ解が協調的な規則によって実現可能になるというもので,わが国企業をめぐる協調的関係,つまりカシカリ関係や系列生産を説明する上でも有効なものである。