- 著者
-
大脇 良成
- 出版者
- 日本土壌肥料學會
- 雑誌
- 日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.5, pp.555-563, 2002
- 参考文献数
- 100
高等植物の鉄獲得機構はIとIIに大きく分けられる。このうちIIはイネ科植物が持つメカニズムで、根からのファイトシデロフォア(ムギネ酸類)の分泌とそれによる土壌中での3価鉄の可溶化、および3価鉄ムギネ酸の吸収が含まれる。このIIの鉄獲得機構に関しては、Takagiによるイネ科植物の根から分泌される鉄可溶化物質の発見に端を発して、その後のムギネ酸の構造決定を経て、近年におけるムギネ酸生合成系の解明、および3価鉄ムギネ酸トランスポーターのクローニングなど、その詳細が分子レベルで解明されつつある。このIIの鉄獲得機構の解明における日本人研究者の寄与は極めて大きく、その過程については森により解説されている。一方、Iはイネ科以外の大部分の陸上植物が持つ鉄獲得機構である。イネ科以外の植物は根の表面で3価鉄を2価に還元した後に、細胞膜にある2価鉄のキャリアーにより細胞内に鉄を取り込む、また、土壌中の不溶態鉄の可溶化には、鉄欠乏に応答したプロトンポンプの活性化による根圏の酸性化が関与している。近年これらIの鉄獲得機構を構成する細胞膜の3価鉄還元酵素、2価鉄トランスポーター、プロトンポンプなどに関する研究が進み、その実態が分子レベルで明らかにされつつある。本稿では、高等植物の鉄獲得機構のうちIに関して近年の研究の進展を開設するとともに将来展望について述べる。IおよびII以外の鉄獲得機構については近年、エンドサイトーシスを基本にしたIIIの可能性が提唱されている。