- 著者
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植田 宏昭
安成 哲三
川村 隆一
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.4, pp.795-809, 1995-08-25
- 参考文献数
- 15
- 被引用文献数
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13
西太平洋上の大規模対流活動と風の場の季節変化を、静止気象衛星の赤外黒体輻射温度(T_<BB>)とヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)全球客観解析データを用いて、1980年から89年の10年間にわたり解析した。特に、本研究では西太平洋上20゜N,150゜E付近の大規模対流活動が、7月下旬に急激に北上することを記載する。活発化した対流活動はそこに強い低気圧性循環を作り出し、その低気圧の南側に西風、北側に東風を引き起こす。この強い低気圧性循環は西部熱帯西太平洋上に忽然と出現する。しかし、同時期の110゜E以西のモンスーン西風気流は加速しておらず、この急激な変化はアジアモンスーンシステムとは切り離されていることを示唆している。更に対流活発域の北側には高気圧性循環が生じ、それは日本付近の梅雨明けに対応している。また大規模対流活動の急激な北上は熱帯性低気圧活動に関連していることが明かになった。中緯度では、7月下旬の大規模対流活動の急激な北上前後のジオポテンシャル高度パターンから、鉛直方向に等価順圧構造になっている事が分かり、20゜N,140゜E(西太平洋)付近の対流活発域から、北方の60゜N,180゜E(べーリング海)に向かってロスビー波が北東方向に伝播していることが示された。この他20゜N,150゜Eの海面水温(SST)は、急激な対流活発化の約20日前の7月上旬に、29℃を越える高温に達していることを示した。この北東方向に拡大する温かいSST領域は、7月下旬の対流活発化と密接に関係していることが推察される。この結果より、SSTの上昇は対流活動の急激な北上に対して十分条件ではないが、重要な必要条件の一つであると考えられる。