著者
釜江 陽一 植田 宏昭 井上 知栄 三寺 史夫
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.125-137, 2023 (Released:2023-03-07)
参考文献数
31
被引用文献数
1

冬季オホーツク海における海氷分布は、極東域および北太平洋域の大気と強く相互作用する。先行研究は、オホーツク海海氷面積の年々変動は広域の大気循環と対応することを指摘している。一方で、オホーツク海における海氷面積の数日から1週間程度の時間スケールでの急激な変動に対応する大気現象については明らかにされていない。本研究では、日ごとの高解像度海洋再解析データを用いることで、オホーツク海海氷密接度の急激な減少イベントをもたらす大気循環について調査した。1993年から2019年にかけて、海氷急減イベントを合計21事例抽出した。急減イベントに共通した大気循環の特徴として、オホーツク海南部における発達した温帯低気圧とベーリング海北部における高気圧偏差、およびその間の強い地表の南東風が確認された。海氷の季節的な張り出しを左右する気候学的な西風とは逆向きである強い南東風は、オホーツク海海氷密接度の急減をもたらす。オホーツク海北部と中部で起こる海氷の急減は、海氷の移流と東風に伴う海氷融解によって起こる。東へと移動する温帯低気圧は、海氷密接度の急減と北太平洋北部の海面気圧の低下をもたらし、結果としてオホーツク海海氷密接度の変動とアリューシャン低気圧の強度の変動の間には時間差が存在する。
著者
倉持 将也 植田 宏昭
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.21-37, 2023 (Released:2023-02-07)
参考文献数
56
被引用文献数
1

熱帯インド洋-西部太平洋域の対流活動に関連して、2020/21年冬季の前半と後半の間で東アジアの気温偏差は負から正へと転じた。平年より気温が低かった2020/21年冬季の前半では、対流圏上層のチベット高原南東部と日本上空にそれぞれ高気圧性と低気圧性の循環偏差対が発現していた。この波列パターンは、東インド洋から南シナ海上で強化された熱帯積雲対流に励起されたロスビー波の伝播を示し、本研究で新たに東南アジア-日本(Southeast Asia–Japan: SAJ)パターンと呼称する。一方、2020/21年冬季の後半では、活発な対流活動域は東方のフィリピン海へ移動し、上層高気圧偏差もまた日本の南へと位置を変えた。このような循環偏差は西太平洋(western Pacific: WP)的なパターンとして認識でき、東アジアの高温偏差をもたらした。SAJパターンに関連するチベット高原南東部の高気圧性循環偏差と南シナ海の対流強化の関係は、パターンが顕著に発現した月を抽出した合成解析でも統計的に有意であることが確認された。一方、WP的なパターンの半分の場合では、フィリピン海での対流の活発化を伴っていた。これらの異なる2つの循環偏差は、線形傾圧モデルに南シナ海とフィリピン海に熱源を与えることでそれぞれ再現された。さらに渦度収支解析から、チベット高原南東への気候学的な上層風の収束が SAJパターンの空間的な位相固定性において重要であることが示唆された。
著者
堀 正岳 植田 宏昭 野原 大輔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.26-38, 2006-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25

茨城県筑波山の西側斜面における斜面温暖帯の発生をとらえるため,気温ロガーを用いた10分間隔の観測を2002年11月から90日間行った.斜面温暖帯の研究において,このような高時間解像度かつ長期間の観測を行ったのは本研究が初めてであり多数の温暖帯事例による定量的な把握が可能となった.観測期間中の斜面上の夜間最低気温は平野に比べてつねに高く,11月では斜面上の気温はつねに0°Cを上回っていた.夜間の気温の階級別出現頻度は,平野上では0°Cを挟んで高温側と低温側に均等に分布していたのに対し,斜面上では高温側に偏った分布を示した.平野と斜面との間で+2°C以上の気温の逆転が10時間以上持続する場合を斜面温暖帯の事例と定義したところ,こうした事例は観測期間中37~47日(42~53%)もみられ,月による頻度の違いはほとんどなかった.斜面温暖帯発生時には平野の気温が日没前後に低下することで平野と斜面との気温逆転が生じている.斜面上の気温は午前3時以降に時間変化が小さい状態になり,これに伴って平野と斜面の気温差は時間変化が小さくなる.温暖帯の中心の気温は1月に向けて低下するのに対して,平野との気温差はわずかに大きくなる傾向がある.このとき斜面温暖帯の中心の標高は200~300mであり,夜間を通してほぼ一定の高さを保っていた.
著者
直井 萌香 釜江 陽一 植田 宏昭 Wei MEI
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.3, pp.655-668, 2020 (Released:2020-06-20)
参考文献数
48
被引用文献数
11 15

中緯度の細い水蒸気輸送帯は大気の川と呼ばれ、東アジアにしばしば重大な社会・経済的影響をもたらす。夏季東アジアにおける大気の川の活動は、先行する冬季エルニーニョの発達に大きく左右される一方で、冬季から夏季にかけてのENSOの季節的な遷移が大気の川の活動にどの程度影響するのかは、明らかになっていない。本研究では、大気再解析と高解像度大気大循環モデルによるアンサンブル実験の結果を用いて、ENSOの季節的な遷移と夏季東アジアにおける大気の川の活動の関係を調査する。先行する冬季のエルニーニョから夏季のラニーニャへと早く遷移した年には、エルニーニョが持続または衰退した年に比べ、西部北太平洋の下層の高気圧偏差がより北へ拡大することにより、東アジア北部でより多くの大気の川が通過する。この高気圧の北への拡大は、海洋大陸と赤道太平洋上の凝結熱加熱偏差に対する大気の定常応答と整合する。再解析と大気大循環モデル実験とでは、中緯度の大気の川と循環の偏差が生じる位置が南北にずれており、これにはサンプル数が限られることとモデルバイアスが影響している可能性があり、東アジアにおける大気の川に関連した地域ごとの自然災害リスクの季節的な予測には課題が残されていることを示唆している。
著者
植田 宏昭 安成 哲三 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.795-809, 1995-08-25
参考文献数
15
被引用文献数
13

西太平洋上の大規模対流活動と風の場の季節変化を、静止気象衛星の赤外黒体輻射温度(T_<BB>)とヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)全球客観解析データを用いて、1980年から89年の10年間にわたり解析した。特に、本研究では西太平洋上20゜N,150゜E付近の大規模対流活動が、7月下旬に急激に北上することを記載する。活発化した対流活動はそこに強い低気圧性循環を作り出し、その低気圧の南側に西風、北側に東風を引き起こす。この強い低気圧性循環は西部熱帯西太平洋上に忽然と出現する。しかし、同時期の110゜E以西のモンスーン西風気流は加速しておらず、この急激な変化はアジアモンスーンシステムとは切り離されていることを示唆している。更に対流活発域の北側には高気圧性循環が生じ、それは日本付近の梅雨明けに対応している。また大規模対流活動の急激な北上は熱帯性低気圧活動に関連していることが明かになった。中緯度では、7月下旬の大規模対流活動の急激な北上前後のジオポテンシャル高度パターンから、鉛直方向に等価順圧構造になっている事が分かり、20゜N,140゜E(西太平洋)付近の対流活発域から、北方の60゜N,180゜E(べーリング海)に向かってロスビー波が北東方向に伝播していることが示された。この他20゜N,150゜Eの海面水温(SST)は、急激な対流活発化の約20日前の7月上旬に、29℃を越える高温に達していることを示した。この北東方向に拡大する温かいSST領域は、7月下旬の対流活発化と密接に関係していることが推察される。この結果より、SSTの上昇は対流活動の急激な北上に対して十分条件ではないが、重要な必要条件の一つであると考えられる。
著者
植田 宏昭 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.199-215, 1998-03-31
参考文献数
14
被引用文献数
4

気候平均場に見られる150°Eでの7月下旬のconvection jump(対流活動の突然の強化)と梅雨明けとの関係を、1993/94年の日本付近の冷夏/暑夏時について調べた。Convection jumpを左右する25°N、150°E付近の7月上中旬の海面水温は、1993(94)年は29℃以下(以上)であった。このため1993年は顕著なconvection jumpが見られず、梅雨明けも明瞭ではない。一方1994年は7月上旬のフィリピン周辺の対流強化による熱源の影響が中緯度偏西風帯に及ぶことにより定常ロスビー波応答が生じ、同時に西南日本で梅雨明けした。続いて7月中旬のconvection jumpによって関東以北も梅雨明けが引き起こされ、偏西風の北上によって定常ロスビー波が消滅した。Convection jump領域を含む盛夏期の20°N付近での対流活動は、1994年は1993年に比べ相対的に活発で、これに伴う上昇流が日本上空で収束していた。
著者
植田 宏昭 小塙 祐人 大庭 雅道 井上 知栄 釜江 陽一 池上 久通 竹内 茜 石井 直貴
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.777-784, 2011-09-30

筑波山の東西南北4斜面上に,標高約100m間隔で気温ロガーを設置し,2008年6月1日から2009年5月31日までの期間において,30分間隔の通年観測を行った.斜面温暖帯を定量的に議論するために,麓からの逆転強度を斜面温暖帯指数(Thermal Belt Index;TBI)として定義した.TBIの大きさは,冬季を中心に極大となり,標高200〜300mを中心に斜面温暖帯が形成されていた.斜面温暖帯の年間発生日数を各斜面で比較すると,西側103回,東側99回,南側59回,北側35回であった.斜面温暖帯を規定する広域の逆転現象との関係を議論するために,平野部に設置されている気象観測鉄塔データと斜面上の気温を比較した.
著者
上田 博 遊馬 芳雄 高橋 暢宏 清水 収司 菊地 理 木下 温 松岡 静樹 勝俣 昌己 竹内 謙介 遠藤 辰雄 大井 正行 佐藤 晋介 立花 義裕 牛山 朋来 藤吉 康志 城岡 竜一 西 憲敬 冨田 智彦 植田 宏昭 末田 達彦 住 明正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.415-426, 1995-06-15
参考文献数
26
被引用文献数
11

2台のドップラーレーダーを主に用いた熱帯の雲やクラウドクラスターの観測を、TOGA-COARE集中観測期間内の1992年11月12日から約2カ月半に渡って、パプアニューギニア、マヌス島で行った。観測期間中に、スコールライン、クラウドクラスターに伴う対流雲や層状雲、及び、日中のマヌス島上に発生する孤立対流雲等の種々の異なるタイプの雲について、ドップラーレーダーで観測した。マヌス島における観測の概要と観測結果の要約について述べる。観測データについての解析結果の予備的な要約は以下の通りである。1)レーダーエコーの発達の初期には暖かい雨のプロセスが支配的であり、最大のレーダー反射因子はこの時期に観測された。2)エコー頂高度の最大は最初のレーダーエコーが認められてから3時間以内に観測された。3)レーダー観測範囲内における、レーダーエコー面積の最大値はクラウドクラスターの大きさに対応して最大のエコー頂高度が観測された時刻より数時間遅れて観測された。4)長時間持続する層状エコー内の融解層の上部に、融解層下層の上昇流とは独立した上昇流が観測された。これらの観測データを用いてさらに研究をすすめることにより、熱帯のクラウドクラスターの構造や発達機構を解明できると考えられた。
著者
植田 宏昭
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

大気-海洋混合層結合モデルによる瞬間的CO_2倍増実験より、全球降水量変動におけるCO_2倍増の直接効果を地表面・大気熱収支の観点から評価した。温室効果ガスであるCO_2の増加により、大気よりも熱容量の大きい地表面が加熱される一方、水蒸気とCO_2のオーバーラップ効果は正味地表面放射の変化を抑制するため、それを補うように蒸発による潜熱フラックスが減少する。この結果、CO_2倍増の直接効果として、降水量の減少が引き起こされる。
著者
植田 宏昭
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度では、熱帯アジアモンスーン地域での気候変動について、日変化・季節変化・年々変動さらには地球温暖化を含む長期変動スケールの研究を行った。使用したデータは客観解析データ(GAME再解析,NCEP,ERA40)、衛星リモートセンシングデータ(TRMM,NOAA)などで、大気海洋結合モデル、海洋1.5層モデルなどの数値モデルと組み合わせて包括的な研究を実施した。個別の成果は下記の通りである:1)IPCC-AR4にむけた複数の地球温暖化数値実験(排出シナリオはSRESA1-B)の結果に基づき、モンスーン降水量の将来変化とその要因について、モンスーン強度、熱帯循環、水蒸気収支などの観点から調査した。解析には8つのモデルを用いた。地球温暖化時には日本を含むモンスーン域の降水量は広域で増える傾向にある。しかしながらモンスーン西風気流は弱くなっており、パラドックスが生じている。この理由として、モンスーン域への水蒸気輸送の増加の寄与が明らかとなった。2)ERA40、NCEP/NCAR再解析データを用いて、インドシナ半島における非断熱加熱の時空間構造とトレンドを調べた。インドシナ半島ではモンスーン期間の始まりと終わりの年2回、積雲対流が多雨をもたらす。雨は春よりも秋に強まる傾向があるが、いづれも風が比較的弱く東側からの水蒸気フラックスの流入がある時期であった。対照的に風が強い7〜8月には地面からの蒸発が顕著であった。どちらのデータを用いても気候学的な特徴は同様に見られたが、トレンドに関しては一貫性のある結果は得られていない。この原因のひとつにはモデルに含まれるバイアスが考えられる。3)インド洋の海面水温はENSOの影響を強く受け、全域で昇温することが知られている。一方、ダイポールモードと呼ばれる東西非対称の海面水温(SST)偏差の発生が指摘されるようになり、ENSOとは独立した存在だと考えられていた。我々は大気海洋結合モデル(CGCM)にEl Ninoの海洋温度を季節を変えて挿入するという実験を行い、夏にEl Ninoが現れた場合は東西非対称海面水温偏差を、一方秋に現れた場合は全域昇温することを証明した。このことからこれらの海面水温偏差の発生にはモンスーン循環とENSOの影響の季節的な結合過程が主因として考えられる。
著者
川村 隆一 植田 宏昭 松浦 知徳 飯塚 聡 松浦 知徳 飯塚 聡 植田 宏昭
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大気海洋結合モデルならびに衛星リモートセンシングデータ等の観測データを併用して、夏季モンスーンのオンセット変動機構の重要な鍵となる大気海洋相互作用及び大気陸面相互作用のプロセスを調査した。標高改変実験からは亜熱帯前線帯の維持のメカニズム、植生改変実験からは降水量の集中化と大気海洋相互作用の重要性が新たに見出された。また、オンセット現象と雷活動との相互関係、夏季東アジモンスーン降雨帯の強化をもたらす台風の遠隔強制やモンスーン間のテレコネクションのプロセスも明らかになった。
著者
植田 宏昭 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-12, 1998-02-25
被引用文献数
12

本研究ではベンガル湾及び南シナ海上の東南アジアモンスーン(SEAM)の開始のメカニズムを, チベット高原とその周囲の海洋との温度コントラストの視点から調べた。循環場の解析にはECMWFによる5日平均客観解析データ(1980-1989年), 対流活動の指標としてはGMSの5日平均等価黒体温度(TBB)データ(1980-1994年)を用いた。東南アジアモンスーンのいち早い開始は, 第28半旬(5月16-20日)に下層のモンスーン西風気流の加速を伴って見られ, その後6月の上旬に2回目のモンスーン強化が生じている。春から夏にかけてのチベット高原上では, 200-500 hPaの気層の温度上昇が約15日間隔で上昇している。特に5月中旬のチベット高原上の温度上昇は, SEAMの開始と一致している点が重要である。すなわちチベット高原とその周囲の海洋との温度差異は, 下層のモンスーン気流の加速と東方への拡大を引き起こし, 結果として南シナ海モンスーン(SCSM)を含むSEAMの急激な開始をもたらす。この関係は, (10゜-20゜N, 80゜-120゜E)での下層の風と200-500 hPaの層厚との年々変動の相関解析によっても確認された。中緯度への影響としては, SCSMの開始による低気圧性渦度と熱源により, 定常ロスビー波が南シナ海上で励起され, 更に北東方向に伝播している。この波の下流の日本付近は正の高度場偏差が現われ, 川村と田(1992)が示した5月中旬の日本の晴天の特異日と一致している。