- 著者
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氏家 達夫
- 出版者
- 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学研究 (ISSN:00215015)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.4, pp.284-292, 1980-12-30
本研究は,子どもがどのようにして誘惑に抵抗できるようになるのかということを問題にした。そして,言語的自己教示方略(VSI)と気紛らわし方略の2つの統制方略によってそれらを説明するために,2つの実験を行った。その結果は次の通りであった。 (1)実験Iでは,誘惑に対する抵抗状況における統制方略の自発的使用の程度が検討された。その結果,(a)視線そらし方略(ATS)が有効である。(b)6歳児はATSを自発的に用いられるが,4歳児では自発的に用いることはできない。(c)VSIは,4,6歳両群で自発的に用いられない。(d)4歳群と6歳群の間の誘惑に対する抵抗能力の差はATSによって説明されると考えられた。 (2)実験IIでは,被験児に,ATS,VSIの2つの統制方略のいずれかを用いるように教示を与えた。その結果,(a)ATS条件は,4歳群に対してのみ効果的であった。6歳群ではATS条件と統制条件に差がなく,しかもそれらは,4歳群のATS条件と差がなかった。(b)一方,VSI条件は6歳群でのみ効果的であった。(c)従って,年齢と条件の間には交互作用が認められる。(d)以上の結果から,4歳児と6歳児の間の誘惑に対する抵抗能力の差と,6歳児と8歳児の間の差には質的な違いがあり,およそ6歳を境にして,誘惑に対する抵抗に必要な統制方略がATSからVSIに入れ替わるものと考えられる。