著者
染矢 貴 鎌田 唐人 中越 信和 根平 邦人
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.53-69, 1989
被引用文献数
5

広島県比和町の1/25,000現行植生図をもとに,山間農村における植生景観の構造と変遷を,社会的変化と対応させながら分析した。その結果,次のようなことがわかった。(1)9地区問では,水田面税比率が増加するにつれて植生ユニットの個数は増加し,平均面積は減少する。(2)小面積の植生ユニットは,水田の近くに多数分布していた。これは,ススキ草原として維持されてきた採草地が,小規模のスギ・ヒノキ植林や,放置によって成立したコナラ-アベマキ群集で細分化されたためであった。各農家が水田に付随した採草地を個々に所有していたことが,植生ユニットの分布構造の多様性が生じた原因の一つであった。(3)大面稜の楠生ユニットは,水田から離れて分布していた。それは,かつてたたら製鉄のための薪炭林であったと同時に共同放牧地でもあった範囲,および公有林の範囲と一致していた。ここは,大規模なスギ・ヒノキ植林や,薪炭林としての利用放棄により遷移したミズナラ-クリ群集,コナラ-アベマキ群集の高木林で構成されていた。また,放牧圧の低下により,ススキ-ボクチアザミ群集に進行遷移した場所もあった。(4)比和町はミズナラ-クリ群集,コナラ-アベマキ群集の両方が生育できる気候帯にあるが,各地区の位置する標高によってその分布様式は異なった。このことが,植生ユニットの分布構造の多様性を生じさせる原因の一つとなっていた。

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