- 著者
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田中 芳則
風巻 周
- 出版者
- 一般社団法人日本応用地質学会
- 雑誌
- 応用地質 (ISSN:02867737)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.2, pp.89-98, 2005-06-10
島根県と鳥取県境の山地域を対象地として, この地域で古く栄えた"たたら"製鉄の原料となった砂鉄の採取跡地の分布と昭和47年の豪雨時に発生した斜面崩壊地の分布とを対比することによって, この地域の花崗岩風化の特徴を浮き彫りにすることを試みた.現地調査と室内実験結果により, 花崗岩風化物であるマサの強度的特性は多数の微細な割れ目によって特徴づけられることがわかった.この微細な割れ目によって, マサは粒子単位に分離しやすく, マサ中の砂鉄を抽出する鉄穴流し作業に先立つ人力による掘削を容易にし, また一方では豪雨時に崩れやすい原因にもなった.風化層の発達に伴う安定性の変化につき斜面モデルを用いて検討した結果によれば, 比高の大きい斜面では風化層が厚くなると崩壊の危険性が高まり, 風化層の厚さが規制されることになるが, 比高の小さい場合には斜面深部まで風化されやすい.深部まで発達した風化層は砂鉄採取作業を効率の良いものとし, 表層の風化がとくに進んだ比高の大きい斜面では浅い風化層が崩壊にしばしば結びついた.鉄穴流し跡と崩壊跡地はともに花崗岩類分布域の中で近接して位置しているが, 前者では花崗閃緑岩, 後者では粗粒花崗岩分布域を主としており, それら相互の位置関係は岩質の相違ならびに地形発達に伴う風化の進行の相違を通じてもたらされた.