著者
菊地 宏吉 水戸 義忠
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.456-470, 1998-12-10
被引用文献数
4

平成8年2月10日午前8時10分ごろ, 北海道西海岸に位置する一般国道229号豊浜トンネル古平側坑口部上方の岩盤斜面において, 大規模岩盤ブロックが崩落した.本論文においては, 現地調査・現場試験および室内試験・現地計測によって得られたデータを基に, 岩盤崩落箇所の状況ならびに岩盤崩落箇所周辺の自然環境, とくに地下水挙動の季節変化についての具体的な事実を網羅した上で, 素因と誘因を交えて, 岩盤崩落の発生メカニズムを検討した.その結果, 今回の岩盤崩落には様々な要因が複雑に絡んで影響を与えているものの, 冬季の厳寒条件下におかれた岩盤の表面凍結によって流出口を閉塞された地下水が, 崩壊面となった潜在不連続面に高い間隙水圧を発生せしめたことが主要因であると結論できる.
著者
阿部 真郎 高橋 明久
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.265-279, 1997-12-10
参考文献数
21
被引用文献数
8 6

1995年1月の兵庫県南部地震の場合、主として花崗岩、真砂土地帯において崩壊、地すべりが多く発生した。大規模な地すべりが分布することで知られる東北地方・グリーンタフ地域においても激しい地震が発生した場合の地すべり挙動の予測が急がれる。1896年の陸羽地震、1914年の仙北地震は秋田県中央部に発生した内陸型(直下型)地震であり、多くの斜面災害を発生させている。とくに地すべりは震度6以上の地震によって発生しており、中新世前期から中期のグリーンタフ層の分布域では主に崩壊性の地すべりが、また鮮新世の砂岩、泥岩層分布域では初生すべりと思われる岩盤地すべりが多く発生している。これらの記録と現地に残る被災状況を検証した結果、東北施方・グリーンタフ地域における地震時の斜面変動形態の一部が明らかになった。すなわち、震度6の地震発生の場合、多くの斜面崩壊が、震度6〜7に達した場合には層理面に沿った初生岩盤地すべりが山地の尾根部に発生することがそれぞれ想定された。
著者
竹村 貴人 斉藤 奈美子 池野 順一 高橋 学
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.160-164, 2009-08-10
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年の急速な産業技術の発展に伴い,レンズやシリコンウェハなどの先端材料の精密加工の需要が非常に高まっている.そのような背景のもと,砥石は物作り産業をはじめとする産業技術の基盤を支える重要な道具の一つであることはいうまでもない.しかしながら,天然砥石の合砥と呼ばれる仕上げ砥は,未だに人工的に造られた人工砥石よりも優れた研削性能を持つものもあるとされており,現在でも日本刀や和包丁など刃物の研ぎ師が好んで使っている.ここでは,このように優れた研削性能を持つ天然砥石,とくに合砥に関する情報を人工砥石に取り入れることを目的として,合砥の内部構造の特徴を応用地質学的な視点を交えてまとめた.その結果,質の高いとされる合砥はサブミクロンオーダーの空隙が多く存在していることが明らかになった.
著者
池田 俊雄
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.77-82, 1971-06-01
被引用文献数
1

Shin Kobe railway station on the Sanyo Shinkan Sen (New Sanyo Line) is situated at the south piedmont of the Mt. Rokko and underlied by active fault named Suwayama fault. Then the elevated railway structures are underlied three different beds such as granite rock, fault clay and alluvial sand and gravels. So, the special considerations were carried out for the design of the structures with regard to the effects of differential movements of the ground due to active faulting, uneven subgrad reaction under the basement structures, and heaving pressure due to swelling of the fault clay.
著者
古閑 美津久 堀川 毅信 宇城 輝 谷内 正博
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.232-241, 2006-10-10
参考文献数
7
被引用文献数
4

2005年9月初旬台風14号の通過に伴う豪雨により宮崎県下では土砂災害や浸水災害が発生した.台風は広い暴風域を維持したまま九州西岸を時速15km程度でゆっくり北上したため,長時間にわたって降雨が続き記録的な豪雨となった.宮崎市の南西約20kmにある鰐塚山(1,118m)の9月3〜6日までの総雨量は1,013mmに達し,山地の周辺,とくに北麓斜面で大規模な崩壊・土石流が発生し,清武川上流の別府田野川,片井野川,境川では大量の土砂が流出して河道を埋めた.幸いにも人的被害はなかったものの崩壊や流出土砂の規模は記録的なものであり,今後の復旧および治山・砂防対策が課題となる.筆者らは空中写真判読を実施し鰐塚山周辺域の災害の概要を把握するとともに9月22,23日に別府田野川流域と鰐塚山の南方広渡川上流域について現地調査を実施した.その結果,鰐塚山北麓では幅数十m,長さ数百m以上に達する大規模崩壊が10か所以上発生し,反面,小〜中規模の崩壊は少ないこと,深層崩壊と地すべり性崩壊の2タイプがあることなどを把握した.一方,広渡川上流では大規模な斜面崩壊により崩土が河床部を埋め,天然ダムが形成された.本報はこれらの災害状況を報告するものである.
著者
遠藤 毅 川島 眞一 川合 将文
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.74-87, 2001-06-10
参考文献数
28
被引用文献数
9 21

大正時代の中ごろから激しさを増した東京都東部に位置する下町低地の地盤沈下は,高潮被害の続出や湿地化による疫病罹災の増加等から昭和初期には社会問題に発展した.一方,当初,地殻変動に起因するとされていた沈下原因は,多くの原因模索の後,第二次世界大戦終期に地下水の揚水であることが実証され,昭和30年代半ばから地盤沈下抑止を目的に地下水の揚水規制が施されている.その結果,地盤沈下は昭和40年代後半から東京都全域にわたり減少する傾向を示し,昭和50年半ばから沈静状態にある.しかし,沈下開始から沈静化に至る約70年間,下町低地の歴史は相続く地盤沈下と洪水・高潮の被害への対応に終始したと言っても過言ではない.昭和初期における地盤沈下原因の模索,地下水揚水説の実証,その後の沈静化に至る一連の地盤沈下問題の整理・集約は,わが国の近代科学史,とくに,公害史のうえで有意義なことと考える.そこで,本論では下町低地を中心に,地盤沈下の推移について,その概要を述べる.
著者
金折 裕司 小林 健治 安野 泰伸 割ヶ谷 隆志 山本 哲朗
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.220-230, 1999-10-10
参考文献数
27
被引用文献数
5 3

1997年6月25日に発生した山口県北部地震(M6.1)の震央付近の阿武川河床で確認された断層露頭の性状を記載するとともに, 地震動による家屋被害のデータを再検討し, 震源断層と断層露頭や被害域との関係を議論した.断層露頭は地質境界として指摘されていた迫田-生雲断層の北東端付近に位置し, NE-SW方向で幅5m以上のカタクレーサイト化したゾーンが発達している.このゾーン内部には最大幅50cmの断層ガウジ帯が"杉"型に雁行配列して発達し, 右横ずれの運動センスを示唆する.この運動センスは山口県北部地震の発震機構と一致した.さらに, この地震の余震は迫田-生雲断層北東部に集中する.家屋被害率を被害家屋総数/世帯数と定義し, 山口県阿武郡阿東町とむつみ村の地区(字)ごとに被害率を計算した.被害額の最も高かった生雲西分地区は震央の南西約5kmに位置し, 迫田-生雲断層上にあった.また, 被害域は生雲西分を中心とし, 迫田-生雲断層を軸とする半径10kmの円内に収まっている.これらのことから, 山口県北部地震は迫田-生雲断層北東部の活動で発生したことが裏付けられた.
著者
朽津 信明
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.42-43, 2008-04-10
参考文献数
2
被引用文献数
1
著者
田中 芳則 風巻 周
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.89-98, 2005-06-10

島根県と鳥取県境の山地域を対象地として, この地域で古く栄えた"たたら"製鉄の原料となった砂鉄の採取跡地の分布と昭和47年の豪雨時に発生した斜面崩壊地の分布とを対比することによって, この地域の花崗岩風化の特徴を浮き彫りにすることを試みた.現地調査と室内実験結果により, 花崗岩風化物であるマサの強度的特性は多数の微細な割れ目によって特徴づけられることがわかった.この微細な割れ目によって, マサは粒子単位に分離しやすく, マサ中の砂鉄を抽出する鉄穴流し作業に先立つ人力による掘削を容易にし, また一方では豪雨時に崩れやすい原因にもなった.風化層の発達に伴う安定性の変化につき斜面モデルを用いて検討した結果によれば, 比高の大きい斜面では風化層が厚くなると崩壊の危険性が高まり, 風化層の厚さが規制されることになるが, 比高の小さい場合には斜面深部まで風化されやすい.深部まで発達した風化層は砂鉄採取作業を効率の良いものとし, 表層の風化がとくに進んだ比高の大きい斜面では浅い風化層が崩壊にしばしば結びついた.鉄穴流し跡と崩壊跡地はともに花崗岩類分布域の中で近接して位置しているが, 前者では花崗閃緑岩, 後者では粗粒花崗岩分布域を主としており, それら相互の位置関係は岩質の相違ならびに地形発達に伴う風化の進行の相違を通じてもたらされた.
著者
竹山 一郎
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.57-70, 1960-07-31

南米のチリ沖に起こった大地震のため,5月24日未明(1960年)日本の太平洋沿岸は大津波の来襲を受けた.その被害の大きかつたこと,被害地域が全国的であったことは,地震国とは言いながら,日本では近年まれなことであった.詳細の調査には,まだ相当の日数を要するので,ここには,現在までの資料に基いて,その概要をお伝えしよう.
著者
稲垣 秀輝
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.196-206, 1999-10-10
参考文献数
10
被引用文献数
4 7

1998年9月21, 22日にかけて台風8号, 7号が本州に上陸し, 中部地方を中心として大きな風災害を引き起こした.とくに, 岐阜県七宗町では台風が通過して二, 三日後に集中豪雨が発生し, 台風で緩んだ地盤の多くの箇所で表層崩壊が発生し, それを引き金とした土石流災害が起こった.ここでは, 台風による風被害が山地森林の新しい植林地に集中していたことを述べるとともに, 風倒木による地盤の緩み状況を調べ, それがその後の豪雨による表層崩壊を発生させた原因であることを示す.森林植生の違いが斜面地盤の安定性にどう関与しているのか研究成果が少なく, 不明な点が多いのが現状である.一般的には, 保水, 土壌侵食防止効果が高く, 根系による地盤の緊縛効果, 杭効果が総合的に発揮される壮年期の混交, 複層林が有利とされている~(1).今回の研究成果はこれらのことを裏付ける結果となった.以下に調査の結果をまとめて示す.1)調査地においては風倒木被害は植林に集中しており(40〜60%の被害), 広葉樹の林では被害が少ない(1〜2%の被害).2)倒伏の被害の大きかった植生は, 基盤岩が1m以浅に位置し, 根鉢の深さが制限される地盤であった.また, 植林で間伐の行われていないところについても倒伏被害が多かった.これは間伐の行われていないところは根系の発達が悪かったためと推定される.3)風倒木のあった植林の地盤は, 表土のNc値が2以下と緩んでいることが明らかになり, 倒伏被害のなかった広葉樹地盤ではその緩みはほとんどなかった.4)風倒木地盤で表層崩壊が発生したのは, 地下水や表流水の集中しやすいやや沢地形の部分であった.5)倒伏地盤の斜面崩壊は風倒木を多量に含んでいるため, 多くの土石流を発生させやすいと考えられる.
著者
稲垣 秀輝
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.306-315, 1999-12-10
参考文献数
21
被引用文献数
6 1

1998年8月台風4号の接近に伴う豪雨が福島県南部〜栃木県北部に集中した.この豪雨で多くの斜面表層崩壊が認められた.これらの崩壊は侵食前線より下方の急斜面で多発しているとともに, 地下水や表流水の集中しやすい地形・地質条件で生じている.この表層崩壊は厚さ1m未満の根系を含む表土だけの崩壊で, 崩壊面には割れ目のほとんどない低溶結火砕流堆積物が露出しており、根系の付着は全く認められないことを特徴としている.ここでは, 根系層だけからなるこのような表層崩壊をその崩壊形態から「根系層崩壊」と呼び, その崩壊状況を説明するとともに, 斜面崩壊に対する植生の根系の防災効果について述べる.調査は, 空中写真による地形解析, 地表地質踏査および簡易貫入試験による地盤調査により行った.調査の結果, 根系層崩壊の特徴は以下のとおりまとめられる.(1)崩壊厚さが1m未満ときわめて薄いこと, (2)斜面傾斜が40°前後と急であること, (3)表流水や地下水が集まりやすい地形・地質で生じること, (4)根系のある表層の直下に岩盤が分布し, N_c値が2以下から50以上に急変すること, (5)表層直下の岩盤に根系が入り込む割れ目がないこと, (6)崩土内の立木が立ったままで崩土全体が速い速度で流下する等である.
著者
大島 洋志
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.113-128, 1968-09-01

The author was engaged in the construction of the Yokohama line, from Higashi-Kanagawa to Kikuna, in Japanese National Railways as the engineering assistant headman of the Higashi-Kanagawa construction division. The work was executed without a hitch at March `68, however there are some grate difficulties from the constructional point of view. They were very important problems for the division to carry out safely near the Tokaido line, the largest artery for Japanese transportation, and to administer the amount of construction. Provided that mentioned to pure engineering problems, they were cleared that there were some soil mechanical problems in considerable wait. The geology in this area consists of alluvial sand and mud, diluvial sand, mud and loam, and pleistcene sandy mudstone. There were such difficulties as to difine the length of piles, to give consideration for the consolidation settlement and excavation for the reaseon of existence of deep soft ground, drowned valley, water saturated sand strata and etc... In this paper the author describes above mentioned engineering geological problems and feelings on this on this division in a few words
著者
安部 明 岩田 博武 石川 正夫 西川 誠
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.29-50, 1971-03-01
被引用文献数
1 2

昭和45年7月1日の集中豪雨によって,千葉県の南部では,山地の崩壊と流出土砂によるダムアップがもたらす河川災害が発生した.この報告においては,山地の崩壊についての発生機構を現地における地形・地質の関連からあきらかにするとともに,河川災害が河川の中〜上流域に集中するにいたった,河川災害の発生機構について推論するものである.
著者
根岸 正充 中島 巌
出版者
一般社団法人日本応用地質学会
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.47-57, 1993-06-10
被引用文献数
6 1

Large rock falls in scale such as sliding,toppling and buckling have occurred frequently in the slope of columnar joint structure in welded tuff at Sounkyo Gorge in Hokkaido. In this work, the fracture mechanism of sliding was elucidated by considering theoretically the crack propagation problem along a columnar joint and the crack propagating behaviors had been monitored over two years by the acoustic emission method. Practically, the reaction on an outside column was determined on the basis of the observational results of the internal temperature gradient. Moreover, the stress intensity factor caused by the reaction was calculated by applying the formula on a double cantilever beam. From this calculated results, it was seen that the crack propagated along a columnar joint corresponding to a decrease in the fracture toughness caused by stress corrosion or an increase in the temperature gradient. The sliding of column is generated by a decrease in the cohesive area due to the crack propargation. The acoustic emission activity due to the crack propagation fluctuated in response of the seasonal changes of rock temperature and reached the peak in June when the temperature gradient became steepest. This seasonal fluctuation of the acoustic emission activity proved the validity of the theoretical consideration on the crack propagation along a columnar joint.