著者
澤田 義弘 広渡 俊哉 石井 実
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.161-178, 1999-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
2

1. 1992年12月から1994年1月にかけて大阪府北部の里山的環境を残す三草山のヒノキ植林, クヌギ林およびナラガシワ林において, 土壌性甲虫類の群集構造および多様性を明らかにするために, 3地点の土壌から土壌性甲虫類をツルグレン装置で抽出し, 種の同定を行った後, 科数・種数・個体数を集計し, 種多様度(1-λ)および地点間の類似度・重複度を算出することにより群集構造を比較した.2. その結果, 今回の調査で三草山の3地点から, 合計24科104種1431個体の土壌性甲虫類が捕獲された.優占5科はハネカクシ科, ムクゲキノコムシ科, ゾウムシ科, タマキノコムシ科, コケムシ科, 優占5種はムナビロムクゲキノコムシ, イコマケシツチゾウムシ, オチバヒメタマキノコムシ, ナガコゲチャムクゲキノコムシ, スジツヤチビハネカクシの1種であった.三草山全体としての土壌性甲虫類の群集構造は種数, 個体数, 種多様度ともに四季を通じて安定していた.3. ナラガシワ林(地点3)では20科82種755個体が捕獲され, 種多様度(0.93), 平均密度(20.9個体/m^2)ともにもっとも高く, ナガオチバアリヅカムシ, ハナダカアリヅカムシなど41種がこの地点だけで確認された.ナラガシワ林における土壌性甲虫類の密度は1年を通じて高いレベルを維持し, 大きな変化はなく安定していた.4. クヌギ林(地点2)では17科47種512個体が捕獲され, 種多様度(0.91), 平均密度(14.2個体/m^2)ともに高かったが, この地点でのみ確認された種はアカホソアリモドキ, アナムネカクホソカタムシなど11種で, 固有性は地点3より低かった.この地点における種数, 密度は夏季にやや減少する傾向が見られたものの, 種多様度は地点3と同様, 安定していた.5. ヒノキ植林(地点1)では7科34種164個が体捕獲され, 種多様度(0.87), 平均密度(4.6個体/m^2)ともにもっとも低く, この地点でのみ確認された種はホソガタナガハネカクシ, チビツチゾウムシ類の1種など9種であった.地点1では, 種数, 密度, 種多様度が夏季に増加したが, これはハネカクシ科のスジツヤチビハネカクシの1種の増加によるものであった.6. 各地点間の類似度(QS)ならびに重複度(Cπ)は0.2∿0.5と低く, 各地点の土壌性甲虫類の群集構造はかなり異なっていることを示した.しかし, 地点2と3の間ではQS, Cπともにやや高い値(約0.5)を示したことから, 優占樹種が異なっても落葉広葉樹の優占する地点では土壌性甲虫類の群集構造は比較的似ていると考えられた.7. 以上の結果から, 三草山の里山林では, とくに落葉広葉樹の優占する地点における土壌性甲虫類の群集構造が多様性に富み, 四季を通じて安定していることが示された.また, 環境の異なる各地点に特有の群集が成立していたことから, 将来, 土壌性甲虫類は有用な環境指標として利用できると考えられる.

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