著者
青木 慎一 倉光 修 阪口 敏彦 石井 実
出版者
The Illuminating Engineering Institute of Japan
雑誌
照明学会 全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
pp.166, 2005 (Released:2007-07-01)

昆虫の誘虫性は松下電工カタログ照明設計資料 照C-31 p208に示されているものである。しかし、これらの方法では、同じ照度での誘虫性評価しか行えない。そこで、本報では実際の照明器具及び壁材等の昆虫の誘虫性を、定量評価する評価手法の研究を行ったので報告する。新しい誘虫性指数を検討し、実際の誘引実験で、検証を行った。その結果からも、今後、新誘虫性指数を用いることによって、昆虫の誘虫性を評価することが可能であると考えられる。
著者
小汐 千春 石井 実 藤井 恒 倉地 正 高見 泰興 日高 敏隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-17, 2008-01-05 (Released:2017-08-10)
参考文献数
52
被引用文献数
1

東京都内に広く分布するモンシロチョウ Artogeia rapae (=Pieris rapae)およびスジグロシロチョウ A. melete (=P. melete)の2種のシロチョウについて,東京都内全域において,過去にどのような分布の変遷をたどってきたか調べるために,アンケート調査,文献調査およびフィールド調査を行った.その結果,特別区では,1950年代から1960年代にかけてモンシロチョウが多かったが,1970年代以降スジグロシロチョウが増え始め,1980年代には都心に近い場所でも多数のスジグロシロチョウが目撃されるようになったが,1990年代以降,再びスジグロシロチョウの目撃例が減少し,かわってモンシロチョウの目撃例が増加したことが明らかになった.さらにこのようなモンシロチョウとスジグロシロチョウの分布の変遷は,特別区以外の郊外の市町村や島嶼部でも見られることがわかった.
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3-4, pp.109-136, 2019-11-30 (Released:2019-12-20)
参考文献数
26

Based on the label information of butterfly specimens collected in Kyoto Prefecture, Japan by Dr. Tadachika Minoura, the distribution of butterfly species in and around Kyoto City in the early Showa period (1930’s to 1950’s) was inferred and compared with the Red Lists of Kyoto Prefecture and the Ministry of the Environment. The specimens contained 63 species and 961 individuals collected at 50 sites in Kyoto Prefecture from 1904 to 1969, including 7 species listed in the Red List of Kyoto Prefecture 2015 or Ministry of the Environment 2018. In particular, it became clear that several species listed on the Red Lists such as Fabriciana nerippe and Eurema laeta were distributed in the Saga or Kinugasa areas, which are now an urban area. Thus Minoura’s collection was proved to an important means for inferring the butterfly fauna in and around Kyoto City in the early Showa period.
著者
西中 康明 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.202-216, 2006-06-30
参考文献数
36
被引用文献数
10

里山林における下刈りがチョウ類の種多様性および群集構造に与える影響を明らかにするために,1999年および2001年に,大阪府北部の三草山の里山林「三草山ゼフィルスの森」においてトランセクト調査を行った.調査地の林床は1999年にはササに被われていたが,2000年の秋以降,下層植生の下刈・非下刈帯を25m間隔で縞状に配置する管理(縞状管理)が試験的に行われた(Fig. 2). 2年間の調査の結果,合計52種1750個体のチョウ類が観察された(Table 1).そのうち日華区系(日浦, 1973)の種は35種(4種の日本固有種を含む)と全体の約67%を占めた.寄生植物に注目すると,落葉広葉樹食者(14種)や高茎草本食者(11),藤本食者(8),低木食者(7)などが多かったが,常緑広葉樹食者(2)は少なかった.低木食者にはササ食者を含めたが,そのうち3種のヒカゲチョウ類(クロヒカゲ,ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ)が両調査年ともに最上位の優占種であった(Table 2).このほか,落葉広葉樹食者であるミヤマセセリやミズイロオナガシジミ,アカシジミ,高茎草本食者であるヒメウラナミジャノメやジャノメチョウなども優占種に含まれた.チョウ類の種数と個体数は,縞状管理の完成前(1999年)の調査では41種975個体であったが,完成後(2001年)には46種775個体となり,種数は増加したものの,個体数は減少した(Table 1).チョウ類群集の種多様度や均衡度(H', 1-λ, J')は,いずれも2001年(3.99, 0.89, 0.72)のほうが1999年(3.40, 0.83, 0.64)よりも高かった.2001年のみに確認されたチョウ類は11種で,その中にはミドリヒョウモンやオオウラギンスジヒョウモンなどの森林性草本食者やウラミスジシジミ,ウラキンシジミ,ウラジロミドリシジミなどのゼフィルス類,環境省のレッド種であるオオムラサキなどが含まれていた.一方,1999年のみに確認されたチョウ類は6種で,そのうちの半数はオープンランド性の種(イチモンジセセリ,ジャコウアゲハ,ツバメシジミ)であった.寄生植物や成虫の食物,分布,化性などに基づいて分類した各グループの種の割合は,種数については調査年間での違いは認められなかった(Table 3).しかし,個体数の割合については,両調査年とも,日華区系の種であり,多化性,樹液食,ササ食の種でもあるクロヒカゲ,ヒカゲチョウ,サトキマダラヒカゲの3種が優占していたが,これらの種の割合は2001に大きく低下した(Tables 2, 3).それに対して,2種の1化性ヒョウモンチョウ類(ミドリヒョウモン,メスグロヒョウモン)を含む花蜜依存種や森林性草本食のチョウ類の個体数は2001年に増加した.季節変化をみると,種類は1999年には6月(16種)と8月(19)に2つの,2001年には6月(19),7月(16),8月(18),9月(12)に4つのピークが認められた(Fig. 3).密度については,両年ともに6月と9月にピークが認められたが,9月のピークは1999年(約フ5個体/km)の方が2001年(35)よりも高かった.また,種多様度(1-λ)は,両年とも5-9月の間,約0.8前後で比較的安定していたが,夏期と秋期については2001年の方がやや高かった.ヒョウモンチョウ類の密度は1999年より2001年の方が高く,特に9月下旬に最大(約3.5個体/km)となった.それに対して,ヒカゲチョウ類では2001年に密度が低下し,特に夏世代の密度は1999年(最大約65)に比べて,2001年(30)は2分の1以下であった(Fig. 4).以上のような結果から、縞状の下層植生管理は,調査地のチョウ類群集の種構成に大きな影響を及ぼさす,優占種であるササ食者の密度の低下や森林性草本食者の増加などを通じて,群集の種多様度を増加させることが示された.
著者
岩崎 拓 青柳 正人 百々 康行 石井 実
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.147-151, 1994-08-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
6
被引用文献数
2 3

オオカマキリとチョウセンカマキリの卵嚢からのカマキリタマゴカツオブシムシ越冬世代成虫の脱出パターンおよび成虫の寿命と産卵数を準自然条件下において調べた。越冬世代成虫の脱出は,5月と6月に見られたが,両種の卵嚢において,雌より雄の方が早く脱出し,雌雄とも,脱出はオオカマキリ卵嚢からの方が早かった。脱出後,雌雄のカツオブシムシとも約2か月間生存し,産卵は,5月下旬から8月中旬まで見られ,1雌当りの産卵数は約10個であった。しかし,両種のカマキリが産卵を始める9月まで生存する個体はなかった。7月下旬と9月中旬に採集したハラビロカマキリおよびチョウセンカマキリのふ化後の卵嚢から,それぞれ,このカツオブシムシの幼虫と脱皮殻を付着した羽化直後の成虫が得られた。越冬世代成虫の脱出は6月中に終了するので,これらの個体はいずれも第1世代のものであると考えられた。
著者
平井 規央 谷川 哲朗 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.57-63, 2011-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
34

アオタテハモドキJunonia orithya orithyaを実験室内の25,20℃の12L-12D(短日)と16L-8D(長日)および30℃の長日条件下で飼育し,発育,季節型,耐寒性を調査した.幼虫と蛹の平均発育期間は温度の上昇とともに短くなり,幼虫期の発育零点t_0と有効積算温度Kは,13.7℃と208.3日度,蛹期は13.4℃と99日度と算出された.25℃では長日・短日ともに3日目に,20℃長日では7日目に成熟卵を持つ個体が見られたが,20℃短日では14日目にも成熟個体は見られなかった.成虫期には日長と温度による季節型が見られた.雌雄後翅裏面の眼状紋と雌の後翅表面の橙色は高温長日で発達し(長日型),低温短日では眼状紋が消失して雌の後翅表面は青色となる(短日型)傾向が強く認められた.幼虫(4齢),蛹,成虫の過冷却点を測定したところ,それぞれ約-12,-17,-20℃となり,成虫で最も低かったが,飼育日長による差は認められなかった.
著者
岩崎 拓 青柳 正人 百々 康行 石井 実
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.147-151, 1994-08-25
被引用文献数
3 3

オオカマキリとチョウセンカマキリの卵嚢からのカマキリタマゴカツオブシムシ越冬世代成虫の脱出パターンおよび成虫の寿命と産卵数を準自然条件下において調べた。越冬世代成虫の脱出は,5月と6月に見られたが,両種の卵嚢において,雌より雄の方が早く脱出し,雌雄とも,脱出はオオカマキリ卵嚢からの方が早かった。脱出後,雌雄のカツオブシムシとも約2か月間生存し,産卵は,5月下旬から8月中旬まで見られ,1雌当りの産卵数は約10個であった。しかし,両種のカマキリが産卵を始める9月まで生存する個体はなかった。7月下旬と9月中旬に採集したハラビロカマキリおよびチョウセンカマキリのふ化後の卵嚢から,それぞれ,このカツオブシムシの幼虫と脱皮殻を付着した羽化直後の成虫が得られた。越冬世代成虫の脱出は6月中に終了するので,これらの個体はいずれも第1世代のものであると考えられた。
著者
柴田 愛 渡邊 和彦 吉尾 政信 石井 実
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.59-69, 2002-09-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
44

モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora Boisduval)の成虫の日周活動を25〜28℃14L-10Dの実験空間(290×320×高さ240cm)において観察した.天井には40Wの白色蛍光灯32本を設置し, 床面中央の照度を約2, 000lxに保った.床面には人工芝を敷き, 蜜源や休息のための植物, キャベツなどを配置した.実験は3シリーズ行ない, それぞれ雌10個体(雌区), 雄10個体(雄区), 雌雄各5個体(雌雄区)を放飼して3日間ずつ行動を観察した.(1) 飛翔および吸蜜活動については, すべての区で明期開始から約2時間は活性が低く, 5〜9時間目に高まり, 明期終了前約2時間は活性が再び低くなる活動リズムが観察された.(2) 飛翔に費やす時間は雄区で最も長く, 雄区・雌雄区ともに雄の探雌飛翔は明期の前半に長い傾向が認められた.(3) 雌区では明期を通じて植物に静止している個体が多く, 雌雄区の雌は短い飛翔を繰り返した.(4) 産卵活動は明期の前半に多く見られたが, 雌雄区の雌では, 明期終了直前にも産卵と吸蜜活動に小ピークが見られた.(5) 「はばたき反応」は, 雄区では明期後半に多く見られたが, 雌雄区の雄ではほとんど見られなかった.(6) すべての区において, 雌雄ともに明期終了前に植物に静止する行動が見られたが, これは植物を寝場所とするためと考えられた.(7) これらの結果から, モンシロチョウ成虫の活動は, 温度や光周条件などさまざまな環境条件が保たれた空間でも一定の日周性を示すが, 同性間, 異性間の個体間干渉によって変化することが示唆された.
著者
小汐 千春 石井 実 藤井 恒 倉地 正 高見 泰興 日高 敏隆
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-17, 2008
参考文献数
52

東京都内に広く分布するモンシロチョウ Artogeia rapae (=Pieris rapae)およびスジグロシロチョウ A. melete (=P. melete)の2種のシロチョウについて,東京都内全域において,過去にどのような分布の変遷をたどってきたか調べるために,アンケート調査,文献調査およびフィールド調査を行った.その結果,特別区では,1950年代から1960年代にかけてモンシロチョウが多かったが,1970年代以降スジグロシロチョウが増え始め,1980年代には都心に近い場所でも多数のスジグロシロチョウが目撃されるようになったが,1990年代以降,再びスジグロシロチョウの目撃例が減少し,かわってモンシロチョウの目撃例が増加したことが明らかになった.さらにこのようなモンシロチョウとスジグロシロチョウの分布の変遷は,特別区以外の郊外の市町村や島嶼部でも見られることがわかった.
著者
石井 実
出版者
The Kansai Plant Protection Society
雑誌
関西病虫害研究会報 (ISSN:03871002)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.61-62, 1993

Last-instar larvae of the bamboo zygaenid, <I>Balataea huneralis</I> were collected in Kyoto city in early December, 1984 and reared under 16- and 12-hour photoperiodic conditions of 20&deg;C. Results of the experiments strongly suggested that this zygaenid passes the winer in diapausing prepupae in Kyoto city.
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1-14, 2020-05-31 (Released:2020-06-13)
参考文献数
55

To examine the structure of the butterfly assemblage in a residential area developed in a Satoyama landscape, transect counts of butterflies were carried out for five years from 2012 to 2016 in the Iwakura-Ichihara area of Kyoto City. Thirty-eight species were observed with five dominant species, Pieris rapae, Zizeeria maha, Eurema mandarina, Ypthima argus and Colias erate, accounting for 77.4% of the total population. Although no red-listed species were found, several Satoyama coppice species such as Erynnis montana and Japonica lutea were observed in the study site. Analyses based on past records and land-use changes demonstrate that the butterfly assemblage has been simplified with the reduction of the Satoyama landscape.
著者
宮崎 俊一 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.88-96, 2004-03-20 (Released:2017-08-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

2000年5月から2002年5月にかけて,京都府西南部の西山公園予定地(以下,西山)および大原野森林公園(以下,大原野)の2調査地において,トランセクト法によりテングチョウLibythea celtis celtoides Fruhstorfer成虫の季節消長を調査した.西山は海抜約90mの丘陵地で,谷あいには畑,水田,ため池,屋敷,社寺があり,その周辺はコナラ,アカマツなどを主体とする雑木林とモウソウチク林に囲まれていた.大原野は海抜約600mの稜線と海抜400-450mの渓谷を含む山地で,コナラやアカマツを主体とする雑木林,ケヤキ林,スギ・ヒノキの植林などで被われていた.本調査の結果,本種成虫の季節消長には,羽化直後の活動期(I期),越夏期(II期),秋期の活動期(III期),越冬期(IV期),越冬後の活動期(V期)という5期が認められた.羽化直後の活動期(I期):5月下旬から6月中旬.成虫の密度は他の期と比べて最も高く,成虫密度(ルート1kmあたりの目撃個体数)は,西山では2000年が10,2001年が40,大原野では両年とも30-40個体であった.成虫は田畑や雑木林の周辺で群がって吸水するなどの行動が顕著であった.また,ナタネの花から吸蜜する個体が見られた.越夏期(II期):6月下旬から9月下旬.夏眠期と考えられ,ごく少数の成虫しか観察されなかった.7月にクリから吸蜜する個体が見られた.秋の活動期(III期):10月上旬から11月上旬.成虫密度はI期の数%から20%程度であった.田畑や雑木林の周辺に少数が集合したり,ノコンギク,セイタカアワダチソウから吸蜜するのが観察された.越冬後の活動(V期):3月中旬から6月上旬.このうち4月下旬までは密度が高く,I期の1-30割程度のピークを示した.5月上旬以降は密度が低下し,一部は6月上旬まで確認された.両調査地ともに2001年の成虫密度が高く,周辺地域と連動した発生密度の高まりが考えられた.しかし,2000年は両調査地で成虫密度に差があったことから,密度変動の様相は隣接地域でも異なることがわかった.本種の生息には食樹ばかりでなく,新成虫の集合する田畑や雑木林の周辺などの明るいオープンスペース,越夏と越冬のための樹林などが必要であることがわかった.本種は,それらの要素を含む里地里山のような適度な撹乱がくりかえし加わる環境を放浪する性質をもつものと考えられる.
著者
吉尾 政信 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.275-279, 2004-09-30

温帯および亜熱帯産のPapilio属アゲハチョウ類では,幼虫期の光周期によって蛹休眠が誘導されることが知られている.一方,熱帯産のアゲハチョウ類の休眠性に関する研究は少なく,休眠の誘導条件などについては不明な点が多い.Ishii(1987)は,オナシアゲハPapilio demoleus L.のサバ個体群(マレーシア,サバ州)の幼虫を20℃,10時間日長で飼育することにより,蛹休眠を誘導しているが,長日区を設けていないため日長の役割については明確ではない.そこで本研究では,熱帯産アゲハチョウ類の休眠性における光周期の役割を明らかにするために実験を行った.1995年2月にサバ州でナガサキアゲハP.memnon L.とシロオビアゲハP.polytes L.の幼虫を採集し,柑橘類Citrus spp.の生葉で飼育した.羽化した成虫をハンドペアリング法によって交尾させた後に採卵し,孵化した幼虫を20℃の12時間および14時間日長で飼育し,幼虫および蛹期間を記録した.その結果,両種とも幼虫期間は約1ヶ月で日長による差はなかったが,蛹期間については日長条件で差が認められた.ナガサキアゲハの蛹期間は,14時間日長で23-24日,12時間日長では23-27日で,わずかではあるが短日で有意に長かった.シロオビアゲハについては,14時間日長では19-21日であったが,12時間日長では蛹化後20-22日に羽化したグループと,羽化までに29-92日を要したグループに分かれた.すなわち,シロオビアゲハでは20℃の短日条件下では休眠する個体が存在した.シロオビアゲハのサバ個体群は25℃では短日条件下(10時間日長)でも休眠に入らなかったが(Ishii,1987),20℃という熱帯では冷涼な気温と短日の組み合わせによって蛹休眠が誘導されることが明らかになった.Denlinger(1986)は,1年を通じて日長の変化の小さい赤道付近では,光周期は休眠誘導の季節信号として機能しないことを示唆しているが,少なくともシロオビアゲハのサバ個体群においては光周期は重要な季節信号であることが示された.