著者
大賀 哲
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.127-152, 2003-03-31

本稿は日本外交とアイデンティティの関係をディスコース分析(Discourse Analysis)を基軸に分析し,外交上のアイデンティティが「アジア太平洋」から「東アジア」へと,どのように変容してきたのかを考察したものである.リアリズム・コンストラクティヴィズムといった国際政治学における既存のフレームワークは「利益」および「規範」といった分析変数を用いて外交分析を行うが,本稿はこうした既存のフレームワークからでは見えにくかったアイデンティティの問題をディスコース分析によって日本外交という枠組みの中で再検討しようという試みである.主に吉田茂・岸信介・福田赳夫・中曽根康弘・90年代の「開かれた地域主義」・アジア通貨危機以降のアジア地域主義といった外交言説に着目し,「アジア」が日本外交の中でどのように定義され,「アジア太平洋」という帰属意識がどのように「東アジア」へと変遷してきたのかを分析した.これは,外交をアイデンティティの構築作業として捉えることであり,ディスコース分析が既存の理論的フレームワークの欠点を補完する,若しくは代替的な枠組みとして一定の役割を担いうるのではないかと考えられる.

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