- 著者
-
大黒 雅之
アレンズ エドワード
デディア リチャード
チャン ウイ
片山 忠久
- 出版者
- 日本建築学会
- 雑誌
- 日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.561, pp.31-39, 2002
- 被引用文献数
-
3
17
1.はじめに 無風時の全身の着衣量についてはすでに多くの基準の中に整理されている。また、裸体表面については、無風・有風時の部位別の対流熱伝達の研究例も多い。しかし、部位別の着衣表面での対流熱伝達率や着衣熱抵抗に関する研究は少ない。2.研究方法 (1)従来法による着衣熱抵抗の評価 着衣抵抗を求めるに当たり、従来法は(1)、(2)式に基づいている。つまり、裸体表面における空気層抵抗をもって、着衣表面の空気層抵抗とする方法が取られている。(2)直接法による着衣熱抵抗の評価 人体各部の熱抵抗は(3)式で表され、サーマルマネキンで熱量と皮膚温度が解っていれば、着衣の表面温度を測定することにより、着衣抵抗が直接算出できる。(3)対流熱伝達率の評価 サーマルマネキンにおける人体各部の熱損失は(4)(5)式で表され、各部の総合熱伝達率から放射熱伝達率を差し引くことにより各部の対流伝達率が算出できる。(4)放射熱伝達率の評価 サーマルマネキンにおける人体各部の放射熱伝達率は(6)式で表され、放射率と有効放射面積率より各部の放射熱伝達率が算出できる。3.計測方法 (1)サーマルマネキン 計測に用いたマネキンは皮膚温度可変型の女性体のサーマルマネキンで、主に室内の不均一温熱環境の評価用として開発されたものである。部位の分割数は16であり、表面積は表-1、有効放射面積率は表-2のよう求められている。制御は(7)式に基いており、設定温度を変更することにより皮膚温を変更できる。(2)着衣 計測に用いた着衣は下着、綿100%の長ズボン、および綿100%の長袖シャツ、靴下、靴である。頭にはセミロングのかつらを取りつけ、着衣の一つとして評価した。また、人体各部の着衣からの熱損失量を明確にするため、マネキンの各部位の境界をビニールテープで縛り、着衣内での部位間の熱の移動がないよう配慮した。図-1に写真を示す。(3)着衣面積率 着衣面積率は写真法により、表-3のように求められている。(4)実験手順 制御環境室内にマネキンを設置した。マネキンの周囲には、天井から布を垂らし、気流を防ぐとともに、室温と放射温度を一致させた。座位の場合はメッシュチェアーを使用し、自然に背もたれにもたれさせた。表面温度測定は、熱画像をマネキン正面と背面から測定した。熱画像を解析することにより、各部位の正面と背面の着衣表面温度を求め、それらを平均することにより各部位の着衣表面温度とした。実験条件としては、裸体時についてはマネキンの設定温度を20、25、30、36.5℃、着衣時については25、30、36.5℃で実験を行った。室温はおよそ15℃とした。4.結果および考察 (1)対流熱伝達率 図-2に立位の裸体時と着衣時の対流熱伝達率を示す。裸体では、足、下腿で特に大きい。また、手や前腕でも胸や背中に比べ大きい。着衣時では、全般的に裸体時より大きくなる傾向がある。特に頭や胸では裸体時の2倍近くになる。さらに、腰、胸、背中で温度差の増大に伴う対流熱伝達率の急激な増加が見られる。図-3に座位の裸体時と着衣時の対流熱伝達率を示す。着衣時では、立位と同様に全般的に裸体時より大きくなる傾向がある。特に腰、頭、胸、背中では裸体時の2倍以上になり、立位の時よりさらに大きな着衣の影響がみられる。全身でみても、立位・座位とも着衣の影響は大きい。また、立位の方が着衣時における温度差の影響が顕著である。(2)対流伝達率のモデル 表-5、6に対流伝達率のモデルを示す。モデルはべき乗則(h_c=a(v)^b)または対数則(I_<cl>=a ln(v)+b)で近似される。裸体部位別では、円筒に対するべき指数0.25に比べ、大きくなる傾向があり、結果として、全身立位が0.43、全身座位が0.59となった。着衣時では、裸体時に比べ全身立位が41%増加、全身座位では53%増加となった。(3)着衣熱抵抗 着衣熱抵抗の測定結果を図-5〜7に示す。立位では、温度差の増大に件い、着衣抵抗は低下する。特に着衣熱抵抗の高い頭、胸、背中、腰で低下が著しい。一方座位では、それらの部位を含め着衣抵抗の低下は立位と比べ緩やかである。全身でも同様の傾向がみられた。また、着衣抵抗の算出方法による差異が見られ、特に、部位別では非常に大きな差になる場合がみられる。5.まとめ 無風時の部位別の着衣抵抗と着衣表面の対流熱伝達率を着衣の表面温度計測により求めた。着衣時は裸体時に比較して対流熱伝達率の増大が認められた。特に頭、腰、胸、背中で大きくなる傾向がみられ、全身では40〜50%程度の増大がみられた。着衣熱抵抗については、算出方法による差異が見られ、特に部位別では非常に大きな差になる場合がみられた。最後に、実用に供するため、対流熱伝達率について近似モデル式を作成した。なお、本論文で求めた対流熱伝達率や着衣抵抗は通気の影響を含むものであり、同タイプの着衣にのみ適用すべきである。