著者
金光 達太郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.61-86, 1982-03-25

農業,土木,造園等の分野で,霜柱を防ぐことは極めて重要な課題となっている.霜柱の発生や生長は,気象と土壤の双方の条件から決まると考えられる.そこで本研究では,まず土壤の条件を起霜体および霜柱への給水体としての2条件に分けて考察してその因子を明らかにし,さらに気象条件をも考慮した霜柱生長方程式をたて,これらによって霜柱の発生や生長の具体的な条件を明らかにしようとしたものである.その内容を次の3部に分けて記述した.I土壤の起霜機能II土壤の給水機能III霜柱の生長方程式まず第1部では土壤の起霜機能についてのべた.土壤の起霜機能とは,土壤が含有水分を氷柱として析出する機能をいう.土壤が起霜機能を持つためには.その中に若干の微粒子の存在することが不可欠の条件とされているが,本研究に於ては,その微粒子の最大粒径を明らかにしようとしたものである.方法としては,第1に,霜柱のよくできる関東ロームから,或る粒径以下の微粒子を取り除いたものを5種つくり,これらの土壤からの霜柱の発生状況を観察した.第2の方法としては,種々の大きさの非水溶性微粒子に適切な水分条件を与えて霜柱の発生状況を観察した.その結果,起霜機能に関与する粒子の最大粒径は,およそ3〜5μであるとの結論に達した.第2部では,土壤の給水機能についてのべた.ここでは,霜柱下底面に水を供給する給水体としての土壤水分条件が如何なる物性値によって表わされるかを研究した.試料としては,種々の段階別に粒径のよくそろった水晶粉末7種と砂2種,さらに,これらと対照する意味で,幅広い粒径の粒子を含有する関東ローム(松戸市常盤平の表土)を使用した.これらの試料のそれぞれに,さまざまな水分量を与えて,その上にのせた起霜物質(水晶白:粒径3〜7μ)に霜柱が発生するかどうかを,低温恒温庫に試料を入れて観察した.同時に,これらの試料の粒度分布,pF-水分曲線,毛管力,透水係数,不飽和透水係数を測定し,これらと,上記の方法で調べた霜柱発生水分域の関連性を検討した.その結果,霜柱発生水分域の最大水分量W_<max>は,pF1に相当するものであり,同じく最小水分量W_<min>は,水分拡散係数D_w≒0.003cm^2/secに相当する水分量であることが明らかとなった.霜柱が発生するためには当然W_<max>-W_<min> >0でなければならず,この値の大きい土壤ほど霜柱が発生しやすいといえる.実験の中で,粒径のそろった水晶微粉末において,霜柱発生水分域が極めて発見しにくかったのは,W_<max>とW_<min>の間に体積含水率において僅かの差しかなかったためと考えられる.これに反し,関東ロームは,体積含水率の広い範囲にわたって霜柱発生水分域があり,給水体としてきわめてすぐれていることがわかった.第3部では,霜柱の生長方程式をたて,霜柱生長の具体的条件を明らかにしようとした.霜柱の生長方程式には,従来,熱伝導型と放射冷却型の2つがあった.前者は,J. STEFANが北極海の氷の生長を説明するためにたてた式,すなわち[numerical formula] (3・1)ここに,l:時刻tにおける氷の厚さ,k_i:氷の熱伝導度,θ_i:氷の表面温度,L:氷の融解の潜熱.より出発したもの,後者は著者らが以前にたてたもの,すなわち[numerical formula](3・2)(x'は下向きに正)ここに,dl/dt:霜柱の生長速度,ε_l:霜柱表面の長波放射射出率,k_s:土の熱伝導度,∂θ_s/∂x':地中の温度勾配,α:霜柱の密生度.後者の放射冷却型方程式は,霜柱が短い場合の現象をよく説明し得ると共に,霜柱の短い場合の実測生長速度ともかなりよく合致していたが,長い霜柱の生長速度の減少を説明できなかった.前者の熱伝導型方程式は,霜柱が長くなるにつれて生長速度が減少することを定性的に説明するには役立ったが,実測の数値とは合致せず,短い霜柱の生長速度には適合しなかった.本研究では,上記の2者を統一して長短いずれの霜柱にも適用できる方程式の誘導を試みた.すなわち,霜柱の表面と底面でそれぞれ熱収支を考え,それを結合する方法で(3・3)式から(3・3・6)式までに示した新しい生長方程式を誘導した.また,この過程において,地中からの熱流q_soの考察の中から,霜柱がよく生長するためには土の熱伝導度k_sが小さいことが重要であることも明らかにした.以上から,霜柱の発生しやすい土壤の条件をまとめると次の通りである.1.粒径が3〜5μ以下の微粒子を含んでいること.2.W_<max>とW_<min>の間の水分量の幅が広いものであること.3.熱伝導度k_sの小さいものであること.関東ロームによく霜柱が見られるのは,適度の寒さと,雪が少ないという気象条件から霜柱が人の目にふれやすいためだけでなく,以上の3条件を十分に満たしているためであることも明らかとなった.以上の条件が満たされている土壤に生長する霜柱の生長方程式として,従来,熱伝導型と放射冷却型の2種があった.本研究では,相補的関係にある両者を統一する新しい生長方程式を誘導し,新方程式による生長速度dl/dtが,実測した速度とおおむね一致することを実証した.さらに従来の2つの型の方程式が,新方程式の特定の条件のもとでの近似式として与えられることも明らかにした.解決すべき問題は多く残されているが,本研究によって,霜柱の生長のための土壤条件と気象条件について,いくつかの基礎的な条件が明らかとなったので,ここに報告した.

言及状況

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×主な粒子はそれほど小さくない 〇主な粒子はそれほど大きくない そしてもちろん、「地温が氷点下になること」も条件には含まれるのですが、あとは「土壌に適量の水分を含む(先述の主な粒子)こと」もあります。(参考文献: https://t.co/xSlxxnyiLG )
@HoryuM ある程度は温暖で、水分を保持して、地表から凍る…できたら土質が一様で、適度な粒度と水捌けかしら。うーんw 関東ローム地域が多いらしいし…。って、千葉大の論文ででてるみたい。おもしろいw http://t.co/w1CAF7Ts
こんな論文どうですか? 霜柱の生長に関する研究(金光 達太郎),1982 http://id.CiNii.jp/Tsl3L 農業,土木,造園等の分野で,霜柱を防ぐことは極…
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RT @min2fly: あとで読んでみたい RT @ronbuntter: こんな論文どうですか? 霜柱の生長に関する研究(金光 達太郎),1982 http://id.CiNii.jp/Tsl3L 農業,土木,造園等の分野で,霜柱を防ぐことは極…
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