- 著者
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歌島 昌由
- 出版者
- 宇宙航空研究開発機構
- 雑誌
- 宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.4-45, 2005-11
世界のラグランジュ点ミッションについて 1978 年8 月打上げのNASA のISEE-3 (International Sun-Earth Explorer-3)により、ラグランジュ点を利用する新しいミッションの世界が開かれた。ISEE-3 は太陽-地球系L1 点のハロー軌道に投入された。太陽-地球系L1 点は主に太陽観測に利用され、1995 年12 月に打ち上げられたESA/NASA 共同ミッションのSOHO (Solar Heliospheric Observatory)が現在もハロー軌道から太陽観測を続けている。太陽-地球系のL2 点においては、2001 年6 月に打ち上げられたNASA のWMAP (Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)が最初のミッションである。太陽-地球系のL2 点は、その位置の特性から天文衛星に適した場所であり、今後もHerschel (ESA, 2007 年打上げ予定), Planck (ESA, Herschel と相乗り打上げ), JWST (NASA, 2011年打上げ予定), GAIA (ESA, 2011 年打上げ予定)などの天文衛星の打上げが計画されている。日本の将来計画 日本においても、太陽-地球系L2点から観測する幾つかの天文衛星の検討が行なわれている。赤外線天文衛星SPICA (Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics), 高精度位置天文観測衛星JASMINE (Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration), 太陽系外地球型惑星探査衛星JTPF (Japanese Terrestrial Planet Finder)などである。JASMINE はサーベイ観測型ミッションであり、サイズの小さいリサジュ軌道が適しているが、SPICA, JTPF などはポイント観測型ミッションであり、どちらかと言うとサイズの大きいハロー軌道が適している。2005 年3 月に発表されたJAXA 長期ビジョン . JAXA 2025 . には、『月や地球重力圏界(ラグランジュ点)を太陽系に広がる人類活動のための新しい場として活用する「深宇宙港構想」の実現をめざす。』という記述が盛り込まれている。ラグランジュ点軌道の保持の方法 太陽-地球系L1、L2 点周りの軌道は、発散時定数が約23 日の不安定軌道であるため、少なくとも数ヶ月間隔の精密な軌道保持制御が必須である。しかしながら、姿勢制御系などからの大きな外乱がなければ、年間1m/s 程度のΔV で軌道保持できる。これを実現するため、正確な摂動モデルの下でΔV ゼロの基準軌道を前もって設計しておき、それに追従する様に数ヶ月間隔で保持制御が行なわれている。欧米での基準軌道の設計法 欧米では円制限三体問題の3 次以上の解析解を求め、それを初期軌道として、各半周軌道の位置・速度のmatching 条件を満たす解を数値的に求める事で、ΔV ゼロの基準軌道を設計している。この方式はSOHO に対して初めて適用された。本報告のハロー基準軌道の設計法 上記の欧米の方法は高次解析解を必要とする難点があるため、本報告では、非線型計画問題の解法の一つである逐次2 次計画法 (SQP 法; Sequential Quadratic Programming)を使い、高次解析解を求める事なく、ΔV ゼロのハロー基準軌道を設計する方法を示す。摂動としては、地球公転軌道の離心率の影響と月潮汐力を考慮した。この他の摂動として、太陽輻射圧と惑星潮汐力があるが、輻射圧はほぼ一定の加速度であり惑星潮汐力は小さいので、本報告の手法は実際の太陽系モデルにも適用できると考えられる。なお、本報告は、2005 年2 月に発行された『太陽-地球系L2 点周りのリサジュ基準軌道の設計』のハロー軌道版である。