著者
岡田 浩樹
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.15-38, 2012-03

本論文は人類の宇宙への進出について人文科学的なアプローチを行う意義について検討する.まず宇宙への進出が人文科学の学問分野において,新しいフィールとトピックをもたらすことを議論する.ついで,生活世界の概念を手がかりに,近現代に人類が経験してきた近代化およびグローバリゼーションと宇宙開発の関係について言及した後に人文科学が宇宙への進出に接近する際の3つのアプローチと時間軸,空間軸の問題について検討する.その上で,文化人類学の研究史と宇宙研究の関連について述べ,「宇宙人類学」が取り扱うことのできるトピックを列挙する.そして最後に,そうしたトピックの一つの事例として観光人類学の観点から宇宙観光することの問題を議論し,宇宙開発,宇宙への進出について文化人類学さらに人文科学からの接近の有効性を示す.
著者
磯部 洋明
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.41-60, 2012-03

人類の宇宙進出の意義について,長期的な視点で人文・社会科学的な観点から検討する.まず問題を宇宙進出に伴って生じると考えられる実際的問題を簡単に述べた後,そもそも人類はなぜ宇宙を目指すのか,宇宙を知り,宇宙へ進出することが人類に何をもたらすのかという問題について,宇宙進出がもたらす希望,宇宙進出の必然性と過去の移民の歴史,神話と宗教,人間の思考と宇宙,文化的多様性などをキーワードに検討を行う.
著者
鈴木 俊之 藤田 和央
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-12, 2007-03

アブレータ熱防御システム信頼性向上に向けて,アーク風洞気流にさらされたアブレータ供試体の熱応答を評価する解析手法を開発した.本手法では,アブレータの熱応答を2 次元で解き,加熱面の境界条件はアーク風洞気流条件を用いたアブレータ周りの流れ場解析との連成により求めた.アーク風洞気流条件は風洞運転条件を用いた加熱器内部の流れ場解析とノズルにおける膨張流れ場解析を行うことで決定した.開発した連成解析手法を用いて,宇宙科学研究本部アーク風洞における加熱試験で得られたアブレータ熱応答の再現計算を行い,表面触媒性,表面窒化反応,表面粗さが熱応答に与える影響を調査した.実験結果との比較では,小さな触媒効率を仮定することにより測定温度に近づくことがわかった.また本加熱試験条件において表面粗さによる影響は少ないものの,窒化反応がアブレータ熱応答に与える影響は非常に大きいことが判明した.
著者
鎌田 東二
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-12, 2012-03

水の惑星に発生した生物種であるヒトのいとなみの中から「宗教」というヒト独自の信仰・思想と行動・儀礼が生まれてきた.すべての宗教に共通する神話と儀礼は,ヒトがこの世界や宇宙をどのように捉え,位置付け(価値付け)てきたか,その諸パターンを示しているといえる.そうした地球上で発生した宗教は,ヒトが宇宙に出る際にどのような役割や機能を果たすのか,宇宙体験と宇宙生活はヒトの心身や感覚や思想にどのような影響を与えるのか,宗教がさまざまな社会リスクにどのように対処し,その対処法は宇宙生活においてどのようにはたらきうるか,またそこにおいて,宗教はどのように変質するか,宗教が持つ力と可能性は何であるのかなどの問題を考察するのが「宇宙宗教学」(宇宙における宗教の研究)の課題である. 地球上では宗教が原因となった対立や戦争もあるが,同時に,宗教は負の感情や苦難の乗り越えや救済や深い洞察をもたらしてきた.そのような諸宗教の中で,日本の宗教および神道が持つ特色や宇宙生活における可能性について考察する.
著者
二川 健 東端 晃 石岡 憲昭
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.9-12, 2006-03

本研究では,これまで多く指摘されている宇宙空間での筋萎縮に注目し,無重力による筋萎縮の新規メカニズムを実証し,その予防の可能性を探ることを目的としている.平成17 年度では,ISS におけるフライト実験実施に向けた実験計画のベースライン化を目指し,次に挙げる地上予備研究を行った.(1)宇宙実験施行時に合わせたRNA 回収条件を確立するため,ISOGEN を用いた時とRNA Later を用いた時の回収率の違いを検討,(2)筋萎縮に重要なユビキチンリガーゼCbl-b の発現調節機構を明らかにするため,酸化ストレスと3D クリノローテーションによるCbl-b の発現調節を解析,(3)骨芽細胞におけるユビキチンリガーゼCblbの機能として,ユビキチンリガーゼCbl-b が無重力による筋萎縮だけでなく,骨萎縮にも重要な働きをしていることを明らかにした.
著者
中野 不二男 藤田 辰人
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-8, 2009-03

The technologies obtained through the space activities should be used in various areas including "Humanities study". "Surveillance study by ALOS data on the trace of migration in ancient history" is an experiment to invent a new field as "Space Humanities study". At the ancient time in Japan, how have the people moved, and how have they lived? The history of mankind is coexistence of the movement and settling down. About settling down place, the verification work is still continuing in every ruin. However, in comparison with "Settling down ", the researches in movement are not performed enough. Because the verification work is usually done on the ground, and spots of ruin exist has been replaced to the average maps. On 2D-maps without rich indications of geographical features, it makes difficult to find out and trace the ancient people's footprint between ruin-to-ruin. The bird's-eye view photos by ALOS, which show details of geographical features, are ideal for those verification works. But processing costs of the bird's-eye view photos by ALOS are quite high for students. Using the newly developed software"Daichi no hoko" ,ALOS data , and 3D- software on the market, it becomes capable to show the details of geographical features on 3D-maps. And tracing footprints of ancient people will be possible in low cost. This method is expected to apply for various fields such as cultural anthropology, archeology, and even for amateur historian's personal study.
著者
山田 良透 Yamada Yoshiyuki
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告: 宇宙科学情報解析論文誌: 第5号 = JAXA Research and Development Report: Journal of Space Science Informatics Japan: Volume 5 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-15-006, pp.43-49, 2016-03-10

Nano-JASMINEは,近年急速に進歩している超小型衛星を利用して,高精度な星の位置決定の観測をしようという試みである.Nano-JASMINEの目指す精度は3ミリ秒角(3mas),1.5×10(exp -8)radである.衛星の姿勢センサーをみると,大型衛星では1秒角(1/3600 度)程度が達成されるのに対して,超小型衛星では1分角(1/60度)程度の姿勢決定精度しか持たない.大型衛星に比べると性能の低い機器を用いた衛星で,高精度観測を達成するカギは,データ解析の役割の重要性である.Nano-JASMINEにおけるデータ解析,特に姿勢モデルのパラメータの選択に関して報告する.
著者
中安 英彦 塚本 太郎 南 吉紀 石本 真二 藤井 謙司 栗田 充 青木 良尚 麥谷 高志 鷲谷 正史 山本 行光 石川 和敬 冨田 博史 元田 敏和 二宮 哲次郎 濱田 吉郎 舩引 浩平 津田 宏果 牧 緑 小野 孝次 廣谷 智成 LIFLEXチーム Nakayasu Hidehiko Tsukamoto Taro Minami Yoshinori Ishimoto Shinji Fujii Kenji Kurita Mitsuru Aoki Yoshihisa Mugitani Takashi Washitani Masahito Yamamoto Yukimitsu Ishikawa Kazutoshi Tomita Hiroshi Motoda Toshikazu Ninomiya Tetsujiro Hamada Yoshiro Funabiki Kohei Tsuda Hiroka Maki Midori Ono Takatsugu Hirotani Tomonari LIFLEX Team
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 = JAXA Research and Development Report (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-10-004, 2010-09-30

宇宙航空研究開発機構では,次世代の再使用宇宙輸送システムの様々なコンセプトについて検討してきたが,その中の有望なものの一つとしてリフティングボディ形状の往還システムがある.これは翼をもたず,胴体の形状によって揚力を発生するタイプの機体であり,構造の軽量化,高い容積効率,極超音速域での空力加熱特性の観点から優位性があるとされている.一方,リフティングボディ形状は揚抗比が小さく,また低速時の安定性/ 制御性が弱いため,ALFLEX(小型自動着陸実験1996)のような翼胴型の機体に比較して滑走路への進入/ 着陸時に困難がある.そこで,リフティングボディ形状の往還システムを実現するうえで最も重要な技術課題の一つとなっている自動着陸技術の蓄積を主目的とした飛行実験を,小規模で低コストな機体を用いて行うことを計画した.本報告では,飛行実験計画および実験システムの概要と,地上試験やヘリコプタを用いた懸吊飛行試験を含む開発のプロセスについて詳述する.
著者
徳留 真一郎 八木下 剛 羽生 宏人 鈴木 直洋 大毛 康弘 嶋田 徹
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-15, 2008-02

無毒で常温貯蔵可能な液体推進剤として亜酸化窒素(N_2O)/エタノールの組合せに着目し,それによる扱い易い液体推進系の実証研究を進めている.当面の目標として大気吸い込み式極超音速推進系の飛行試験に用いる加速用ロケットエンジンへの適用を目指しているが,その低温環境順応性を活かす衛星・探査機搭載推進系への応用も視野に入れている.これまでに,推力700N級の要素試験供試体を用いた燃焼試験を2シリーズ行って,エンジン噴射器設計のための有用なデータと運用特性を取得してきた.併せて,水冷式燃焼器による燃焼器壁面熱流束分布の測定や厚肉のシリカ繊維強化プラスチックSFRP製燃焼器を用いた燃焼試験によって燃焼器への耐熱複合材料適用の可能性も探っている.
著者
奥山 圭一 加藤 純郎 山田 哲哉
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.55-75, 2005-03

REV was the first reentry capsule developed through pure domestic technology and successfully recovered. REV is thermally protected against the severe aerodynamic heating by carbon-phenolic ablator material. The present paper describes the feature of the heating test in the arc windtunnel and the ablator characteristics clarified during the research and development process of the REV heatshield. Because the heat flux anticipated on the stagnation surface is about 2 MW/m^2, the dominant surface recession mechanism is identified to be in the reaction control region. The thermochemical reaction data have been acquired through three arc-heater facilities with different enthalpy level for calibration and tuning of the ablation analysis code. The thermomechanical behavior of the ablator under the high heat flux environment such as delamination, or spallation also has been investigated for functional safety of the heatshield.
著者
定点滞空飛行試験実験隊
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-428, 2007-03

成層圏プラットフォーム飛行船の鍵となる技術を実証すると共に、各種ミッション試験を実施すべく、定点滞空試験機の飛行試験を実施した。定点滞空試験機は、全長68 m の無人飛行船であり、遠隔操縦または自律で飛行する。試験機は合計8 フライト飛行、最後の3 フライトでは、自律による定点滞空飛行を実施、約900 m と2 km の高度に於いて地球観測ミッションに成功、4 km 及び4 km 近傍の高度に於いて通信放送ミッションに成功した。本稿では、定点滞空試験機の開発及び定点滞空飛行試験について: 1) プロジェクトの概要; 2) 系統ごとの試験システムの構成及び関連する開発試験、追跡管制系との噛み合わせ試験; 3)飛行試験計画から実施に至る、飛行試験実施作業; 4) 第一段階から第三段階の各飛行の概要及び系統毎の結果を含む飛行試験結果、について報告する。ハイテク膜材製の試験機船体構造は、試験期間中健全であり、安全な運用に供し得ることが確認された。熱浮力制御は、実飛行状態で海面から4 km の高度まで有効であった。定点滞空精度は設計要求内であり、飛行誘導制御則が妥当であることが確認された。以上、目的は総て達成され、定点滞空飛行試験は成功裡に終了した。
著者
木村 俊哉 高橋 政浩 若松 義男 長谷川 恵一 山西 伸宏 長田 敦
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-22, 2004-10

ロケットエンジン動的シミュレータ(Rocket Engine Dynamic Simulator : REDS)とは、ロケットエンジンの始動、停止、不具合発生時等のエンジンシステム全体の過渡特性を、コンピュータを使って模擬し評価する能力を持った計算ツールである。REDS では、ロケットエンジンの配管系を有限個の配管要素の連結(管路系)としてモデル化し、この管路系に対しボリューム・ジャンクション法と呼ばれる手法を用いて質量、運動量、エネルギーの保存方程式を時間発展的に解くことによって管路内(エンジン内)における、燃料、酸化剤、燃焼ガスの流動を計算する。ターボポンプ、バルブ、オリフィス等の流体機器はボリューム要素やジャンクション要素にそれらの対応する作動特性を持たせることで動作を模擬する。燃料や酸化剤の物性については、ロケットエンジンの特殊な作動範囲に適応するよう別途外部で開発された物性計算コード(GASP 等)を利用するが、そのためのインターフェースを備える。燃焼ガスの物性計算については、熱・化学平衡を仮定した物性計算を行い、未燃混合ガスから燃焼状態、燃焼状態から未燃混合状態への移行計算も行う。ターボポンプの運動は、ポンプやタービンの特性を考慮したポンプ動力項、タービン動力項を加速項とする運動方程式を流れの方程式と連立して時間発展的に解くことによって求める。未予冷区間においては、配管要素と流体との間の熱交換を、熱伝導方程式を解くことによって求め、再生冷却ジャケットにおいては、燃焼ガスから壁、壁から冷却剤への熱伝達を考慮する。燃焼室、ノズル内においては、燃焼ガス流れの分布から熱流束の分布を考慮する。今回のバージョンでは、2 段燃焼サイクルを採用した我が国の主力ロケットLE-7A 及びLE-7 の始動、停止過程時における動特性を模擬することを目的にエンジンモデルを構築し、実機エンジン燃焼試験の結果と比較することでシミュレータの検証を行った。但し、ボリューム要素の組み合わせは任意であり、エキスパンダーサイクルなどの新しいエンジンシステムに対しても適用が容易に出来る。計算の高速化のために2CPU 以上用いた並列処理への対応を行い、ネットワークで接続した複数のPC(PC クラスタ)を用いた並列計算も可能である。
著者
郭 東潤 徳川 直子 吉田 憲司 石川 敬掲 野口 正芳
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-43, 2007-03

小型超音速ロケット実験機(NEXST-1)の第2回目の飛行実験を2005年10月に豪州ウーメラ実験場において行った。飛行実験では予定していた全てのシーケンスを正常に実施し,貴重な飛行実験データを健全に取得することができた。その中で,空力データは空力設計コンセプトを検証する上で重要な計測項目のひとつである。本稿では飛行実験で得られた空力データを評価し,空力設計の妥当性について検討した結果を報告する。具体的には,飛行実験により計測された空力データをCFD解析結果と比較し,抵抗低減コンセプトを取り込んだNEXST-1の空力設計に対する妥当性を検証することができた。これは機体まわりの表面静圧分布がCFD解析と概ね一致していること,胴体や主翼まわりの表面静圧分布の分析からワープ主翼,エーリアルール胴体の設計コンセプトの妥当性が確認できたこと,さらに主翼上面の圧力分布に関して自然層流翼設計に用いた目標静圧分布と良好な一致が得られたことによる。また気流乱れの小さい飛行実験条件下で,主翼上面や前胴まわりの境界層遷移データの取得に成功し,その遷移計測結果から設計点において主翼上面の境界層遷移位置がもっとも後退していることが明らかになり,自然層流翼設計の妥当性が完全に確認された。さらにその遷移計測結果を数値予測結果と定量的に比較し,境界層遷移予測ツールの精度向上に役立つ知見も得られた。特に設計点における抵抗係数の特性は,飛行実験結果とCFD解析結果で良好な一致が示され,これにより超音速巡航時の設計点における抵抗低減コンセプトの妥当性が定量的に検証された。しかしながら,表面静圧分布や空気力特性の一部の飛行実験データにはまだCFD解析結果や風洞試験結果との不一致が見られ,現在もその原因については検討を続けている段階にある。最後に今回の飛行実験により得られた技術を適用して想定実機スケールのSST形状の設計を行い,実機スケールにおいて巡航マッハ数と設計揚力で13%の揚抗比改善効果の得られることを確認した。
著者
松尾 裕一 坂下 雅秀 末松 和代 染谷 和広 高木 亮冶 土屋 雅子 藤岡 晃 藤田 直行
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-210, 2010-10

本報告は,旧航空宇宙技術研究所において2002 年10 月に導入され,宇宙航空研究開発機構(JAXA)に統合された以降もJAXA スーパーコンピュータシステムの一部として2008 年10 月まで稼動したスーパーコンピュータシステム「数値シミュレータIII」に関して述べる.まず,調達から設置・運用までの経緯を俯瞰し,システム概要・特徴を明確化することにより,今回の導入において成功した点,あるいは注意点・課題を洗い出す.次に,性能評価データや運用統計データを用いて,技術的に実際にできたこと・できなかったことや,運用によって得られたものを明らかにするとともに技術課題や運用上の課題を分析する.特に,SMP クラスタという中核計算機の構成上の特徴から来るJAXA アプリケーションのハイブリッド並列における特性や性能推定法について言及する.これらの材料をもとに,航空宇宙分野におけるスーパーコンピューティングの重点技術やスーパーコンピュータシステムのあり方を考察するともに,設備運用のノウハウや勘所(=暗黙知)を抽出・可視化し,次世代実務者の礎とする.
著者
原田 正志
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-13, 2007-03

従来の設計法では設計することが困難であった低レイノルズ数域で使用されるプロペラの設計法を開発した。従来の設計法ではプロペラ後流の形成により生じるエネルギ損失を最小にすることでプロペラ形状を決定していたが、この設計法はブレードの形状抵抗によるエネルギ損失が支配的になる低レイノルズ数領域では有効ではない。一方ここで提唱する設計法ではプロペラの推進効率そのものを最大化してプロペラ形状を決定するため、形状抵抗によるエネルギ損失を考慮に入れることができる。提唱する設計法では、ブレード翼型の性能データに基づいて推力と吸収パワを循環のみの関数として表し、最適化を行う。提唱する設計法の有効性を検証するため、一般的な人力飛行機用のプロペラを従来の設計法と提唱する方法とで設計した。その結果、従来の設計法で設計されたプロペラの推進効率よりも提唱する設計法で設計されたプロペラの推進効率の方が最大で1.8%高いという結果が得られた。
著者
亘 慎一 加藤 久雄 村田 健史 山本 和憲 渡邉 英伸 久保田 康文 國武 学
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.79-87, 2013-03

人工衛星など社会的なインフラに障害を発生させるような宇宙環境の変動を扱う宇宙天気では, 太陽から地球周辺の宇宙空間までの広大な領域を扱う必要がある. 宇宙機による観測は重要であるが, この広大な領域を観測データだけでカバーするのは困難である. そこで, 観測データと数値シミュレーションデータを統合的に処理してサービスを提供できる情報プラットホームの構築が必要となる. 情報通信研究機構が構築しているGfarmによる大容量分散ディスクシステム,スーパーコンピュータ, AVSやIDLなどをインストールした可視化サーバ群, ジョブサービスを行うRCM(R&D Chain Management)System, 様々な観測データをダウンロードしてプロットや解析を行うSTARS(Solar-Terrestrial data Analysis and Reference System)のサーバなどからなる「宇宙天気クラウド」を利用した宇宙天気の情報サービスについて報告する.
著者
井澤 克彦 市川 信一郎 Izawa Katsuhiko Ichikawa Shinichiro
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 = JAXA Research and Development Report (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-07-025, 2008-02-29

フライホイールは衛星の姿勢制御に欠くことのできない機器であり、姿勢の喪失は電力、ミッションの喪失に直結することから、フライホイールには非常に高い信頼性が要求される。しかしながらフライホイールに関する重大な不具合がいくつかの衛星プロジェクトの開発段階と軌道上運用段階で発生しているのが現状であり、確実に動作するフライホイールが期待されている。一方、観測衛星をはじめとして、衛星の姿勢・指向制御要求が高精度化し、さらに高速でかつ大きな姿勢変更が求められるなど、フライホイールに対する要求(高出力トルク、振動擾乱の低減など)が近年高度化しつつある。これら高度化要求と前述の高信頼度要求を同時に満足することが求められている。上述背景のもと、宇宙航空研究開発機構では、2001年度より、当時、宇宙3機関(宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団)連携協力事業の一環として、高性能かつ高信頼性の次世代高性能フライホイールに関する研究(次世代玉軸受ホイールの研究、磁気軸受ホイールの研究)をスタートさせ(現在は宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部にて研究を継承している)、現在までに中・大型サイズのタイプM/Lの開発を完了している。本資料は宇宙用フライホイールの原理・設計を概説するとともに、高速回転ホイール開発研究で得た技術知見を整理したものである。
著者
木村 俊哉 高橋 政浩 若松 義男 長谷川 恵一 山西 伸宏 長田 敦 Kimura Toshiya Takahashi Masahiro Wakamatsu Yoshio Hasegawa Keiichi Yamanishi Nobuhiro Osada Atsushi
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 = JAXA Research and Development Report (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-04-010, 2004-10-25

ロケットエンジン動的シミュレータ(Rocket Engine Dynamic Simulator: REDS)とは、ロケットエンジンの始動、停止、不具合発生時などのエンジンシステム全体の過渡特性を、コンピュータを使って模擬し評価する能力を持った計算ツールである。REDSでは、ロケットエンジンの配管系を有限個の配管要素の連結(管路系)としてモデル化し、この管路系に対しボリューム・ジャンクション法と呼ばれる手法を用いて質量、運動量、エネルギーの保存方程式を時間発展的に解くことによって管路内(エンジン内)における、燃料、酸化剤、燃焼ガスの流動を計算する。ターボポンプ、バルブ、オリフィスなどの流体機器はボリューム要素やジャンクション要素にそれらの対応する作動特性を持たせることで動作を模擬する。燃料や酸化剤の物性については、ロケットエンジンの特殊な作動範囲に適応するよう別途外部で開発された物性計算コード(GASPなど)を利用するが、そのためのインターフェースを備える。燃焼ガスの物性計算については、熱・化学平衡を仮定した物性計算を行い、未燃混合ガスから燃焼状態、燃焼状態から未燃混合状態への移行計算も行う。ターボポンプの運動は、ポンプやタービンの特性を考慮したポンプ動力項、タービン動力項を加速項とする運動方程式を流れの方程式と連立して時間発展的に解くことによって求める。未予冷区間においては、配管要素と流体との間の熱交換を、熱伝導方程式を解くことによって求め、再生冷却ジャケットにおいては、燃焼ガスから壁、壁から冷却剤への熱伝達を考慮する。燃焼室、ノズル内においては、燃焼ガス流れの分布から熱流束の分布を考慮する。今回のバージョンでは、2段燃焼サイクルを採用した日本国の主力ロケットLE-7AおよびLE-7の始動、停止過程時における動特性を模擬することを目的にエンジンモデルを構築し、実機エンジン燃焼試験の結果と比較することでシミュレータの検証を行った。ただし、ボリューム要素の組み合わせは任意であり、エキスパンダーサイクルなどの新しいエンジンシステムに対しても適用が容易に出来る。計算の高速化のために2CPU以上用いた並列処理への対応を行い、ネットワークで接続した複数のPC(PCクラスタ)を用いた並列計算も可能である。
著者
歌島 昌由 Utashima Masayoshi
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 = JAXA Research and Development Report (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-05-008, 2005-11-30

世界のラグランジュ点ミッションについて。1978年8月打上げのNASAのISEE-3(International Sun-Earth Expiorer-3)により、ラグランジュ点を利用する新しいミッションの世界が開かれた。ISEE-3は太陽-地球系L1点のハロー軌道に投入された。太陽-地球系L1点は主に太陽観測に利用され、1995年12月に打ち上げられたESA/NASA共同ミッションのSOHO(Solar Heliospheric Observatory)が現在もハロー軌道から太陽観測を続けている。太陽-地球系のL2点においては、2001年6月に打ち上げられたNASAのWMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)が最初のミッションである。太陽-地球系のL2点は、その位置の特性から天文衛星に適した場所であり、今後もHerschel(ESA, 2007年打上げ予定)、Planck(ESA, Herschelと相乗り打上げ)、JWST(NASA, 2011年打上げ予定)、GAIA(ESA, 2011年打上げ予定)などの天文衛星の打上げが計画されている。日本の将来計画。日本においても、太陽-地球系L2点から観測する幾つかの天文衛星の検討が行なわれている。赤外線天文衛星SPICA(Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics)、高精度位置天文観測衛星JASMINE(Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration)、太陽系外地球型惑星探査衛星JTPF(Japanese Terrestrial Planet Finder)などである。JASMINEはサーベイ観測型ミッションであり、サイズの小さいリサジュ軌道が適しているが、SPICA、JTPFなどはポイント観測型ミッションであり、どちらかと言うとサイズの大きいハロー軌道が適している。2005年3月に発表されたJAXA長期ビジョン-JAXA2025-には、「月や地球重力圏界(ラグランジュ点)を太陽系に広がる人類活動のための新しい場として活用する「深宇宙港構想」の実現をめざす。」という記述が盛り込まれている。ラグランジュ点軌道の保持の方法。太陽-地球系L1、L2点周りの軌道は、発散時定数が約23日の不安定軌道であるため、少なくとも数ヶ月間隔の精密な軌道保持制御が必須である。しかしながら、姿勢制御系などからの大きな外乱がなければ、年間1m/s程度のΔVで軌道保持できる。これを実現するため、正確な摂動モデルの下でΔVゼロの基準軌道を前もって設計しておき、それに追従する様に数ヶ月間隔で保持制御が行なわれている。欧米での基準軌道の設計法。欧米では円制限三体問題の3次以上の解析解を求め、それを初期軌道として、各半周軌道の位置萌速度のmatching条件を満たす解を数値的に求める事で、ΔVゼロの基準軌道を設計している。この方式はSOHOに対して初めで適用された。本報告のハロー基準軌道の設計法。上記の欧米の方法は高次解析解を必要とする難点があるため、本報告では、非線型計画問題の解法の1つである逐次2次計画法(SQP法; Sequential Quadratic Programming)を使い、高次解析解を求める事なく、ΔVゼロのハロー基準軌道を設計する方法を示す。摂動としては、地球公転軌道の離心率の影響と月潮汐力を考慮した。この他の摂動として、太陽輻射圧と惑星潮汐力があるが、輻射圧はほぼ一定の加速度であり惑星潮汐力は小さいので、本報告の手法は実際の太陽系モデルにも適用できると考えられる。なお、本報告は、2005年2月に発行された「太陽-地球系L2点周りのリサジュ基準軌道の設計」のハロー軌道版である。
著者
高橋 孝 上田 裕子 平野 聡 邑中 雅樹 Runtao Qu 小堀 壮彦 Takahashi Takashi Ueda Hiroko Hirano Satoshi Muranaka Masaki Runtao Qu Kobori Takehiko
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 = JAXA Research and Development Report (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RR-04-017, 2005-01-31

It is aimed that a simulation framework of Spacecraft Simulation Environment (SSE) can be commonly applied not only to Full Software Simulations (FSS) but also to Processor-In-the-Loop Simulations (PILS) and to Hardware-In-the-Loop Simulations (HILS), while various spacecraft simulators are generally tailor-made at individual phases of development. Prior to the actual implementation of SSE, the framework for FSS and PILS was designed, and its advantage to spacecraft simulations using an experimental system was demonstrated. In this study, implemented was an experimental system for PILS, and feasibility of the framework using the system was demonstrated. Real-time tasks working on microITRON communicate with the rest of spacecraft simulator through Java-based middleware Hirano's Object Request Broker (HORB) via distributed communication interfaces (I/Fs) written in Java. These I/Fs are designed to be commonly applied to both FSS and PILS. Also implemented was a tool called Java-microITRON Bridge GENerator (JBGEN) to automatically generate Java-microITRON communication programs from the I/Fs. Furthermore, MemorySaving HORB is developed in order to avoid communication latency.