- 著者
-
大瀧 雅之
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 社會科學研究 (ISSN:03873307)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.2, pp.141-159, 2006-01-31
本稿では日本政策投資銀行(以下政投銀と略)を例として公的金融の役割と民営化問題について考察した.特に政投銀の情報生産能力に注目した.これについては,多くの実証研究が.政投銀が民間銀行の融資を引出すという,いわゆる「カウベル効果」の存在を認めている.すなわち政投銀の審査情報を利用し民間銀行も協調融資すると考えられている.政投銀の情報生産能力の淵源は日本政策投資銀行法にある「中立性」と「公共性」にあると考えられる.どの企業グループにも属さないという「中立性」は,借り手に安心感を与え,融資に当たっての情報収集を容易にする.ところで協調融資は,「クラブ財」と見なせる.融資に関する情報を生産提供するのが政投銀(クラブ)であってこれを共有し使用するのが民間銀行であると考えるわけである.そして政投銀の利潤を「クラブ」の使用料と捉える.このとき利潤極大化ではなく収支相償を前提とする「公共性」は,情報生産の本来の目的である民間銀行(「クラブ員」)の共同利潤を最大化できるという意味で優れている.