- 著者
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山中 正樹
- 出版者
- 桜花学園大学
- 雑誌
- 桜花学園大学人文学部研究紀要 (ISSN:13495607)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.240-233, 2006-03-31
「地獄変は」、芥川龍之介の最高傑作のひとつとして、発表直後から高く評価されてきた。それは、所謂<主人公>良秀の「芸術の完成のためにはいかなる犠牲も厭わない」という姿勢が、芸術至上主義の徹底的追求という芥川自身の姿勢と絡めて論じられてきたからである。しかし「地獄変」の<語り手>の語りを詳細に分析してみると、それは決して良秀の芸術至上主義的姿勢だけを宣揚しょうというものでないことが判明する。むしろ<語り手>は、良秀を描くというよりは、「地獄変」屏風完成の逸話を語りながら、「堀川の大殿」の実態を暴こうとしていたと考えられる。すなわち「堀川の大殿」に「二十年来御奉公」してきた、「大殿」に臣従し、従順であるはずの<語り手>が、実は「大殿」を裏切り、表面的な言説とは裏腹にその悪辣さを糾弾していたのである。そのことにより、良秀の芸術至上主義的姿勢が極まったのである。本稿は<語り手>に注目する事で、新しいテクストの読みを提示した。