著者
山本 和子
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.57-75, 2008-03

蕭紅の後期の代表作とされる『胡蘭河伝』は1940年、香港で完成された。当時は日中戦争のさなかで、蕭紅の故郷東北は日本の占領下にあった。帰りたくとも帰れない状況のなか、蕭紅は遠く離れた故郷胡蘭での幼少期を振り返って、その「忘れがたい」光景を書き綴った。それが『胡蘭河伝』である。伝は物語の意。作品は全七章とエピローグから成り、各章はそれぞれ異なる物語で、短編としても十分に読み応えのあるものである。物語では、祖父と過ごした屈託ない日々のほのぼのとした情景が描かれる一方、因習や迷信に縛られた人々が元気な少女を死に追いやる残酷で哀しい情景も描かれている。作者は物語のなかで、愚昧な民衆が「無責任で無自覚な殺人集団」と化す深刻な問題を提起し、人間存在の不条理性を鮮明に描き出した。本稿では、『呼蘭河伝』の背景を探りながら、作者が意図したところ及び作品の魅力の所在に迫った。

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