- 著者
-
辻田 有紀
遊川 知久
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.1, pp.121-127, 2008-05-30
- 被引用文献数
-
3
遺伝的多様性を確保しつつ野生植物の自生地復元を実施するためには、栄養繁殖ではなく、種子繁殖での個体増殖が望ましい。ところが、ラン科植物では、自生地に種子を播種し、個体を増殖することが困難である。ラン科の種子は、自然条件下での発芽に共生菌からの養分を必要とするため、生育に好適な共生菌のいる場所に播種しなければ発芽しない。しかし、自生地で共生菌が生育する場所を特定することは非常に難しい。共生菌が生育する場所を特定するためには、種子を入れた袋を地中に埋設し、定期的に回収することで発芽を観察する野外播種試験法が有用である。そこで本報では、絶滅が危惧されているマヤランとサガミラン(サガミランモドキ)を対象に、野外播種試験を行った。その結果、一部の試験区で多くの発芽が観察され、自生地における共生菌の分布を特定することができた。さらに、発芽に好適な深さや時期なども推定でき、野外播種試験法の有用性が示された。本手法は、ラン科植物の自生地内保全を行う上で実践的な技術となるばかりでなく、発芽の環境や種子休眠など、学術的な知見も得られる有用な手段として、幅広い応用が期待できる。