著者
辻田 有紀 村田 美空 山下 由美 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1906, (Released:2019-10-15)
参考文献数
47

近年、果実に寄生するハエ類の被害が全国の野生ランで報告され、問題となっている。ハエ類の幼虫は子房や果実の内部を摂食し、種子が正常に生産されない。しかし、被害を及ぼすハエ類の種や寄生を受ける時期や部位が、ランの種によって異なることが指摘されており、適切に防除するためには、ランの種ごとに被害パターンを明らかにする必要がある。そこで、国内に自生する 4種のランについてハエ類の被害状況を調査した。その結果、 4種すべてにおいて、ランミモグリバエの寄生を確認した。また、本調査で被害を確認した地域は、福島県、茨城県、千葉県、高知県と広域に及んでいた。調査した 4種のうち、コクランとガンゼキランでは、果実内部が食害を受けていたが、ナツエビネとミヤマウズラでは、主に花序が幼虫による摂食を受け、開花・結実に至る前に花茎上部が枯死しており、ランの種によって食害を受ける部位が異なった。ミヤマウズラでは福島県産の株に寄生を確認したが、北海道産の株にはハエ類の寄生が見られず、地域により被害状況が異なる可能性が明らかになった。本調査より、絶滅に瀕した多くのラン科植物がハエ類の脅威にさらされている現状が改めて浮き彫りとなり、ランミモグリバエの防除はラン科植物を保全する上で喫緊の課題である。
著者
辻田 有紀 村田 美空 山下 由美 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.1906, 2019 (Released:2020-01-13)
参考文献数
47

近年、果実に寄生するハエ類の被害が全国の野生ランで報告され、問題となっている。ハエ類の幼虫は子房や果実の内部を摂食し、種子が正常に生産されない。しかし、被害を及ぼすハエ類の種や寄生を受ける時期や部位が、ランの種によって異なることが指摘されており、適切に防除するためには、ランの種ごとに被害パターンを明らかにする必要がある。そこで、国内に自生する 4種のランについてハエ類の被害状況を調査した。その結果、 4種すべてにおいて、ランミモグリバエの寄生を確認した。また、本調査で被害を確認した地域は、福島県、茨城県、千葉県、高知県と広域に及んでいた。調査した 4種のうち、コクランとガンゼキランでは、果実内部が食害を受けていたが、ナツエビネとミヤマウズラでは、主に花序が幼虫による摂食を受け、開花・結実に至る前に花茎上部が枯死しており、ランの種によって食害を受ける部位が異なった。ミヤマウズラでは福島県産の株に寄生を確認したが、北海道産の株にはハエ類の寄生が見られず、地域により被害状況が異なる可能性が明らかになった。本調査より、絶滅に瀕した多くのラン科植物がハエ類の脅威にさらされている現状が改めて浮き彫りとなり、ランミモグリバエの防除はラン科植物を保全する上で喫緊の課題である。
著者
菅 みゆき 福島 成樹 山下 由美 遊川 知久 徳田 誠 辻田 有紀
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.167-174, 2018-09-25 (Released:2019-10-10)
参考文献数
18

千葉県山武市の調査地においてラン科植物を食害するハエ類の調査を行った.まず,植物の種によって加害するハエの種が異なるかどうかを検証するため,6種のランより果実や花茎を採集し,内部に寄生するハエ類を比較した.次に,季節によってハエの種が異なる可能性を検証するため,ランの開花時期である春(5月)から夏(7月)にかけて採集されたハエ類の比較を行った.クマガイソウより得られた成虫標本は,ランミモグリバエと同定された.また,ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子領域の配列を用いた分子同定の結果,様々なランより5~7月にかけて採集されたハモグリバエサンプルの配列は,ランミモグリバエの配列とほぼ一致した.このことから,本調査地ではランミモグリバエが様々なランを食害しており,季節によりハエの種に変化はないと考えられた.また,本研究では3種のランについて果実内に見られたハエの発育段階を約2週間おきに観察し,幼虫および囲蛹期間の推移状況を明らかにした.キンランとクマガイソウ果実の被害が大きく,個体群維持のため,ランミモグリバエの防除が必要であると考えられた.
著者
東 哲典 蘭光 健人 庄司 顕則 伊藤 彩乃 赤﨑 洋哉 松前 満宏 山﨑 旬 遊川 知久 辻田 有紀
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.430-435, 2020-05-31 (Released:2020-07-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

クゲヌマランは絶滅危惧種であるが,近年,埋立地や公園など人工的に造成された緑地に多くの自生が確認されている。しかし,本種がなぜ造成地に定着することが可能になったのか,その原因は未だ明らかでない。本種は共生する菌類への栄養依存度が非常に強い部分的菌従属栄養植物で,特に種子の発芽は共生菌からの栄養供給が不可欠である。そこで本研究では,造成地に生育するどのような菌類が本種の種子発芽に関与し,定着を可能にしたかを明らかにするため,埋立地の植栽林にある自生地で野外播種試験を行い,得られた実生の共生菌を特定した。その結果,担子菌のイボタケ科に属する3種類の菌が本種の種子発芽に関与していることが明らかになった。これらの菌は,実生の成長段階,埋設した土壌深度や播種地点に関わらず検出され,種子発芽とその後の生育に重要な役割を果たしていると考えられた。イボタケ科は,ブナ科やマツ科樹木と共生する外生菌根菌である。植栽されたこれらの樹木とイボタケ科の菌類との間に安定した共生系が成立し,これらの菌を利用してクゲヌマランは造成地へ定着できたと推測される。
著者
辻田 有紀 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.121-127, 2008-05-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
29
被引用文献数
14

遺伝的多様性を確保しつつ野生植物の自生地復元を実施するためには、栄養繁殖ではなく、種子繁殖での個体増殖が望ましい。ところが、ラン科植物では、自生地に種子を播種し、個体を増殖することが困難である。ラン科の種子は、自然条件下での発芽に共生菌からの養分を必要とするため、生育に好適な共生菌のいる場所に播種しなければ発芽しない。しかし、自生地で共生菌が生育する場所を特定することは非常に難しい。共生菌が生育する場所を特定するためには、種子を入れた袋を地中に埋設し、定期的に回収することで発芽を観察する野外播種試験法が有用である。そこで本報では、絶滅が危惧されているマヤランとサガミラン(サガミランモドキ)を対象に、野外播種試験を行った。その結果、一部の試験区で多くの発芽が観察され、自生地における共生菌の分布を特定することができた。さらに、発芽に好適な深さや時期なども推定でき、野外播種試験法の有用性が示された。本手法は、ラン科植物の自生地内保全を行う上で実践的な技術となるばかりでなく、発芽の環境や種子休眠など、学術的な知見も得られる有用な手段として、幅広い応用が期待できる。
著者
辻田 有紀 遊川 知久
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.121-127, 2008-05-30
被引用文献数
3

遺伝的多様性を確保しつつ野生植物の自生地復元を実施するためには、栄養繁殖ではなく、種子繁殖での個体増殖が望ましい。ところが、ラン科植物では、自生地に種子を播種し、個体を増殖することが困難である。ラン科の種子は、自然条件下での発芽に共生菌からの養分を必要とするため、生育に好適な共生菌のいる場所に播種しなければ発芽しない。しかし、自生地で共生菌が生育する場所を特定することは非常に難しい。共生菌が生育する場所を特定するためには、種子を入れた袋を地中に埋設し、定期的に回収することで発芽を観察する野外播種試験法が有用である。そこで本報では、絶滅が危惧されているマヤランとサガミラン(サガミランモドキ)を対象に、野外播種試験を行った。その結果、一部の試験区で多くの発芽が観察され、自生地における共生菌の分布を特定することができた。さらに、発芽に好適な深さや時期なども推定でき、野外播種試験法の有用性が示された。本手法は、ラン科植物の自生地内保全を行う上で実践的な技術となるばかりでなく、発芽の環境や種子休眠など、学術的な知見も得られる有用な手段として、幅広い応用が期待できる。