著者
長谷川 啓一 上野 裕介 大城 温 井上 隆司 瀧本 真理 光谷 友樹 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.311-321, 2017 (Released:2018-05-01)
参考文献数
32

キンラン属は、我が国の里山地域を代表する植物種群であり、菌根菌との共生関係を持つ部分的菌従属栄養植物である。全国的に、里山林の荒廃や樹林の減少に伴って生育地が減少しつつある。本研究では、キンラン、ギンラン、ササバギンランの3種を対象に、(1)樹林管理の有無とキンラン属の分布にどのような関係があるか、(2)キンラン属が生育するためにどのような環境整備が必要か、(3)ハモグリバエ類の食害はどの程度生じているのか、を明らかにし、今後、キンラン属の保全のためにどのような方策が必要かを検討した。調査は、茨城県つくば市の20.5 haの樹林において、キンラン属3種の分布と、樹林の管理状態、生育地点の林内環境(植生被度、開空率、近接する樹木の樹種と胸高直径、リター層の厚さ、土壌硬度、土壌水分)を調査した。また、ハモグリバエ類による3種の食害状況を調べ、結実率を求めた。その結果、下草刈りなどの樹林管理を行っている管理エリア(14.0 ha)では3種すべてが生育し、合計47地点で計881株が確認されたのに対し、非管理エリア(6.5 ha)では、キンランのみが生育し、その数も1地点で計3株であった。また、3種の生育株数は、微環境の違い(開空率、草本被度、土壌硬度)や、近接する外生菌根性の樹種によって異なることがわかった。他方、3種ともに、袋がけを行わなかった大半の株でハモグリバエ類による被害を受けており、食害を受けていない健全株は、キンラン1%、ギンラン12%、ササバギンラン0%であった。これらの結果から、キンラン属の保全のためには、生育環境を維持するための樹林管理に加え、ハモグリバエ類による食害対策が重要と考えられた。
著者
遊川 知久 三吉 一光 横山 潤
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series B, Botany (ISSN:03852431)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.129-139, 2002-12

Molecular phylogenetic analyses using two data sets, derived from DNA sequences of matK, the maturase-encoding gene located in an intron of the chloroplast gene trnK, and ITS (internal transcribed spacer) region of the 18S-26S nuclear ribosomal DNA, were performed to examine relationships among 37 taxa in Cymbidium. Although each data set did not provide conclusive evidence in itself, the data sets combining the two regions yielded the following insights: (1) Cymbidium subgenus Cyperorchis and section Pachyrhizanthe, often treated as independent genera, were nested within the remaining members of Cymbidium. (2) All the three subgenera of Cymbidium, namely, Cymbidium, Cyperorchis, and Jensoa, turned to be para-/polyphyletic. (3) Among sections of Cymbidium, Austrocymbidium, Cyperorchis, Iridorchis, and Maxillarianthe did not show monophyly. (4) At specific level, our results indicated the polyphyly of Cymbidium bicolor, although bootstrap supports for the clades including C. bicolor were not robust.
著者
立澤 文見 斎藤 規夫 鴫原 淳 本多 利雄 土岐 健次郎 篠田 浩一 遊川 知久 三吉 一光
出版者
園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.215-220, 2010 (Released:2010-04-22)
参考文献数
26
被引用文献数
5 5

青花シラン‘紫式部’の青紫色花被から新規アシル化アントシアニンを単離した.この色素はシアニジン 3,7-ジグルコシドをデアシル体とし,2 分子のカフェ酸でアシル化していた.化学構造は化学およびスペクトル分析による構造解析の結果,シアニジン 3-O-(β-グルコピラノシド)-7-O-[6-O-(4-O-(6-O-(4-O-(β-グルコピラノシル)-trans-カフェオイル)-β-グルコピラノシル)-trans-カフェオイル)-β-グルコピラノシド]であることがわかった.本研究の結果から,青花シランにおける花色のブルーイング効果について考察した.
著者
邑田 仁 東馬 哲雄 田中 伸幸 秋山 弘之 林 蘇娟 米倉 浩司 菅原 敬 根本 智行 永益 英敏 遊川 知久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

ミャンマーに延べ6回18人を派遣し合計5282点の標本資料を採集した。その他地域から補足的に収集した標本、および従前の「南ヒマラヤの植物多様性」調査で収集した標本資料等を合わせて分子系統解析を含めた系統分類学的解析を行い、新分類群を含む多数のミャンマー新産植物を発見した。このうち45新産植物、1新属、6新種はすでに論文等で公表した。この結果南ヒマラヤ地域の植物相は日華区系の西端としての特徴を示すと同時にインド区系の東端やインドシナ区系の北西端としての性格をもっていることが再確認され, 区系地理学的境界領域としてのより精度の高い解析の必要があることが明らかとなった。
著者
辻田 有紀 遊川 知久
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.121-127, 2008-05-30
被引用文献数
3

遺伝的多様性を確保しつつ野生植物の自生地復元を実施するためには、栄養繁殖ではなく、種子繁殖での個体増殖が望ましい。ところが、ラン科植物では、自生地に種子を播種し、個体を増殖することが困難である。ラン科の種子は、自然条件下での発芽に共生菌からの養分を必要とするため、生育に好適な共生菌のいる場所に播種しなければ発芽しない。しかし、自生地で共生菌が生育する場所を特定することは非常に難しい。共生菌が生育する場所を特定するためには、種子を入れた袋を地中に埋設し、定期的に回収することで発芽を観察する野外播種試験法が有用である。そこで本報では、絶滅が危惧されているマヤランとサガミラン(サガミランモドキ)を対象に、野外播種試験を行った。その結果、一部の試験区で多くの発芽が観察され、自生地における共生菌の分布を特定することができた。さらに、発芽に好適な深さや時期なども推定でき、野外播種試験法の有用性が示された。本手法は、ラン科植物の自生地内保全を行う上で実践的な技術となるばかりでなく、発芽の環境や種子休眠など、学術的な知見も得られる有用な手段として、幅広い応用が期待できる。
著者
遊川 知久
出版者
国立科学博物館
雑誌
筑波実験植物園研究報告 (ISSN:02893568)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.43-46, 1995-12

フィリピンに自生する,ラン科セッコク属の1新分類群Dendrobium ×usitae Yukawaを記載する。1994年4月,フィリピン,ルソン島北部のカラヤン諸島,バブヤン島海抜500-700mでVillamor T. Usita氏が発見した植物の同定を依頼された。Dendrobium bullenianum Rchb. f.とDendrobium goldschmi-dtianum Kraenzl.にきわめて類似した形質を持っものの,花色が赤紫をおびたオレンジ色で濃赤紫色の条が入ること,唇弁基部の隆起がやや鋭形であること,小し体が鈍頭の三角形であることで,両種から明確に区別される。表1に示されるように,これらの形質は1花序あたりの花数,花の大きさといった量的形質とともに,両種の中間を示す。さらにこの植物は, D. bullenianumとD. goldschmidtianumがそれぞれ約40,60%混生する場所に,少数の個体が自生する。一方,D. bullenianumとD. goldschmidtianumの多数の個体を観察した結果,上記の諸形質は安定しており,この植物がいずれかの種の種内変異とは考えられない。これらの点からこの植物を,D. bullenianumとD. goldschmidtianumの自然交雑種と判断し,Dendrobium ×usitaeと命名する。なお親分類群のひとつ,Dendrobium bullenianumは,異名のDendrobium topaziacum Amesで栽培されることが多い。他方,Dendrobium goldschmidtianumは,従来Dendrobium miyakei Schltr.とされてきたものだが,Christenson (1994)によって,前者が正名であることが明らかにされた。D. miyakeiの分類学的問題については,Yukawa and Ohba (1995)を参照されたい。