著者
西中 康明 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.202-216, 2006-06-30
参考文献数
36
被引用文献数
10

里山林における下刈りがチョウ類の種多様性および群集構造に与える影響を明らかにするために,1999年および2001年に,大阪府北部の三草山の里山林「三草山ゼフィルスの森」においてトランセクト調査を行った.調査地の林床は1999年にはササに被われていたが,2000年の秋以降,下層植生の下刈・非下刈帯を25m間隔で縞状に配置する管理(縞状管理)が試験的に行われた(Fig. 2). 2年間の調査の結果,合計52種1750個体のチョウ類が観察された(Table 1).そのうち日華区系(日浦, 1973)の種は35種(4種の日本固有種を含む)と全体の約67%を占めた.寄生植物に注目すると,落葉広葉樹食者(14種)や高茎草本食者(11),藤本食者(8),低木食者(7)などが多かったが,常緑広葉樹食者(2)は少なかった.低木食者にはササ食者を含めたが,そのうち3種のヒカゲチョウ類(クロヒカゲ,ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ)が両調査年ともに最上位の優占種であった(Table 2).このほか,落葉広葉樹食者であるミヤマセセリやミズイロオナガシジミ,アカシジミ,高茎草本食者であるヒメウラナミジャノメやジャノメチョウなども優占種に含まれた.チョウ類の種数と個体数は,縞状管理の完成前(1999年)の調査では41種975個体であったが,完成後(2001年)には46種775個体となり,種数は増加したものの,個体数は減少した(Table 1).チョウ類群集の種多様度や均衡度(H', 1-λ, J')は,いずれも2001年(3.99, 0.89, 0.72)のほうが1999年(3.40, 0.83, 0.64)よりも高かった.2001年のみに確認されたチョウ類は11種で,その中にはミドリヒョウモンやオオウラギンスジヒョウモンなどの森林性草本食者やウラミスジシジミ,ウラキンシジミ,ウラジロミドリシジミなどのゼフィルス類,環境省のレッド種であるオオムラサキなどが含まれていた.一方,1999年のみに確認されたチョウ類は6種で,そのうちの半数はオープンランド性の種(イチモンジセセリ,ジャコウアゲハ,ツバメシジミ)であった.寄生植物や成虫の食物,分布,化性などに基づいて分類した各グループの種の割合は,種数については調査年間での違いは認められなかった(Table 3).しかし,個体数の割合については,両調査年とも,日華区系の種であり,多化性,樹液食,ササ食の種でもあるクロヒカゲ,ヒカゲチョウ,サトキマダラヒカゲの3種が優占していたが,これらの種の割合は2001に大きく低下した(Tables 2, 3).それに対して,2種の1化性ヒョウモンチョウ類(ミドリヒョウモン,メスグロヒョウモン)を含む花蜜依存種や森林性草本食のチョウ類の個体数は2001年に増加した.季節変化をみると,種類は1999年には6月(16種)と8月(19)に2つの,2001年には6月(19),7月(16),8月(18),9月(12)に4つのピークが認められた(Fig. 3).密度については,両年ともに6月と9月にピークが認められたが,9月のピークは1999年(約フ5個体/km)の方が2001年(35)よりも高かった.また,種多様度(1-λ)は,両年とも5-9月の間,約0.8前後で比較的安定していたが,夏期と秋期については2001年の方がやや高かった.ヒョウモンチョウ類の密度は1999年より2001年の方が高く,特に9月下旬に最大(約3.5個体/km)となった.それに対して,ヒカゲチョウ類では2001年に密度が低下し,特に夏世代の密度は1999年(最大約65)に比べて,2001年(30)は2分の1以下であった(Fig. 4).以上のような結果から、縞状の下層植生管理は,調査地のチョウ類群集の種構成に大きな影響を及ぼさす,優占種であるササ食者の密度の低下や森林性草本食者の増加などを通じて,群集の種多様度を増加させることが示された.

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縞状の下草刈りでチョウの種の多様性は増加、全体の個体数は減少。「大阪府北部の三草山の里山林における実験的下刈りのチョウ類の種多様性および群集構造に与える影響」 http://t.co/QnOlAxBA
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