- 著者
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下沢 敦
- 出版者
- 共栄学園短期大学
- 雑誌
- 共栄学園短期大学研究紀要 (ISSN:1348060X)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, pp.207-223, 2009-03-31
室町期の興福寺においては、職務怠慢や職責懈怠などの軽度の義務違反や些細な注意義務違反(過失)を犯した本人に一度は科した罪科(刑罰・処罰)を後から免除するという奇妙な法的慣行が相当の頻度で行われていた形跡がある。この慣行では、義務違反行為者本人が義務を遂行すると確約するか、二度と再び同じ義務違反を繰り返さぬ旨誓約すると、罪科が免除された。筆者は、この確約または誓約を本人の態度における一種の改善と捉えて、本人の態度の上に改善の跡が認められれば、罪科の主要な目的が達せられたことになり、その時点で罪科を免除することが可能になると理解する。この種の罪科免除を伴う罪科の本質は、近代刑法で言う「特別予防」を目的とする刑罰の一種と見られるが、日本中世社会の一面で「見懲らし」による犯罪の一般予防が追求されていたのに対し、他面では、軽度の義務違反行為につき特別予防目的の処罰が追求されていた事情を推察するに足る。