- 著者
-
中原 泉
加藤 譲治
- 出版者
- 日本歯科医史学会
- 雑誌
- 日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.2, pp.61-75, 1995-12-25
- 参考文献数
- 25
かつて死病と恐れられ猛威をふるいながら,いつのまにか成書から消えていった疾病は少なくない.口腔外科の難病であったnoma (水癌)も,その一つである.水癌とは,小児の口腔粘膜に現れる進行性の壊疽性口内炎の一臨床型,と定義される.水癌の原因は定まっていないが,要するに機械的化学的刺激のため,組織抵抗が減弱した部に細菌が感染して発症する.治療法は往時,局所的に病巣を切除・焼灼し,清潔安静と滋養強壮を保つ他なく,予後不良で死亡率は70〜95%に及んだ.この魔の疾患は,栄養状態の改善,予防接種の普及,抗生物質の普遍により,昭和30年(1955)以降激減し,古典的疾患へと衰退した.