- 著者
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Bauer Tobias
- 出版者
- 熊本大学
- 雑誌
- 熊本大学社会文化研究 (ISSN:1348530X)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.23-40, 2010-03-25
本稿は、「脳死・臓器移植」問題に対するドイツ福音教会(EKD)の立場について分析を試みるものである。1997年の臓器移植法の可決以前にも、ドイツ福音教会はドイツのカトリック教会と共同で、脳死・臓器移植に関する基本的な見解を二度にわたって公にしている(1989年及び1990年)。その見解の中で、ドイツ福音教会は「脳死」を基本的に認め、臓器提供が隣人愛の行為になり得るとして、移植医療を肯定的に評価した。本稿は、脳死・臓器移植をめぐる福音主義神学の議論ではなく、ドイツ福音教会が教会として取った公式見解を検討し、「脳死」というコンセプト、臓器提供、臓器摘出、移植術を受けること等に関する教会の論証のありかたを分析しようとするものである。移植医療を肯定的に評価するに至るまで、いかなる論証が行われ、キリスト教の教義及び聖書がどのように解釈し直されたのか、それに伴って、1989年と1990年の見解から現在に至るまで、福音教会の立場がいかに発展してきたのかという点についても考察する。