- 著者
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北村 陽子
- 出版者
- 同志社大学
- 雑誌
- 社会科学 (ISSN:04196759)
- 巻号頁・発行日
- vol.87, pp.55-75, 2010-05
第二次世界大戦後のドイツにおける戦争障害者をめぐる状況を確認することは,大変困難な作業となる。なぜなら,第二次世界大戦直後のドイツは,四つの国によって分割統治されており,それぞれの占領地区では戦争障害者を含む戦争によって損害を被った犠牲者への対応が全く違っていたことに加えて,こうした違いに起因して,1949年に成立した二つのドイツ国家の政策が異なっていたためである。これらの方針の違いを理解するには,それ以前の,戦間期における戦争犠牲者(おもに第一次世界大戦の戦争障害者・戦没兵士遺族)をめぐる援護政策や彼らの置かれた境遇をふまえた上で精査し評価することが必要である。本稿では,第二次世界大戦後の戦争障害者をめぐる状況を理解するための準備作業として,戦間期の戦争障害者の社会的な位置を描き出すことを課題とし,先行研究の成果を整理することとする。その際には,戦争障害者援護を規定する法令,戦争障害者の意見を代弁する組織,戦争障害者の自己意識と他者からの認識という三つの分野に限定して行なう。