- 著者
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赤澤 威
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.4, pp.517-540, 2010-03-31
アフリカで誕生したホモ・ハイデルベルゲンシスがネアンデルタールと新人サピエンスの最後の共通祖先である。ヨーロッパ大陸でハイデルベルゲンシスからネアンデルタールという固有の系統が誕生する20万年前、アフリカでは現代人の祖先集団、新人サピエンスがやはりハイデルベルゲンシスから生まれる。新人サピエンスは10万年前からアウト・オブ・アフリカと称される移住拡散を繰り返し、ユーラシア大陸各地に移り住み、その一派はヨーロッパ大陸にもおよび、その地に登場するのが新人の代名詞ともなっているクロマニョンである。ヨーロッパで共存することになった入植者クロマニョンと先住民ネアンデルタールとの間にどのような事態が生じたか、結末はクロマニョンの側に軍配が上がり、ネアンデルタールは次第に消滅して行き、絶滅した。この結末については考古資料、化石、遺伝子の世界で明示できるが、なぜ新人に軍配が上がったのか、両者の間には一体何があったのか、何が両者の命運を分けたのか、誰もまだ答えをもたない。このネアンデルタール絶滅説の検証に取り組み、数々の成果を挙げたのが"Cambridge Stage 3 Project"(T.H.van ANDEL&W.DAVIES eds.2003 Neanderthals and modern humans in the European landscape during the last glaciation)である。Stage3とは6万年前から2万年前のこと、ヨーロッパ大陸は最後の氷期に当たり、同時にクロマニョンの入植そしてネアンデルタールの絶滅という直近の交替劇の起こった時代である。本プロジェクトは、交替期の気候変動パタンとそれに対するネアンデルタールとクロマニョン両者の適応行動の違いをみごとに復元した。この研究によって交替劇の存在を裏付けるデータは着実に蓄積され、交替劇がいつ、どこで、どのような経過をたどって進行したか、少なくともヨーロッパ大陸を舞台とする交替劇に関する記述的部分は具体化され、交替期における旧人社会と新人社会の間の相互作用の概略が見えてきた。本稿は、同プロジェクトの成果を参考にしながら、ヨーロッパ大陸を舞台にして、両者はいつ、どこで、どのような経緯をたどって交替していったか、その概略を述べ、そこから交替期の時代状況に対して両者の採った適応行動の違いを考察し、交替劇の原因に迫ってみたものである。