- 著者
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富積 厚文
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.1, pp.25-50, 2010-06-30
本稿ではスピノザの思想における共同体の倫理学の基礎について考察する。議論の中心はスピノザとホッブズの比較である。両者は人間たちの敵対性を認める点で一致するが、それぞれの共同体論は発生的に大きく異なる。前者は絶対を対象的にではなく非対象的に見る思惟により展開される「喜び」の政治論であるが、後者は優れて世俗的な見解を提示する「恐怖」を主軸とした政治術である。一見すると二つの主張は対立しているが、スピノザの自然思想からすれば、ホッブズによって多分に人間的な事柄として抽出された自然における<他>と<自>の関係性は、もはや「一である」とも言表しえない「絶対に無限な有るもの(神)」において問い直される。その問いとは、人間たちの<出遭い>の機が「生の育成」に寄与しうるかどうかである。詮ずるにスピノザの思想における共同体の倫理学は、相対の世に絶対の神を示そうとする宗教論のうちに働く、現実のための学である。