著者
大庭 伸也
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.157-164, 2002
参考文献数
13

孵化の様子を観察した結果,タガメの卵が孵化するとき,卵殻と薄い膜を破って幼虫が出てくる.卵殻を破って出てくることを「卵殻孵化」,透明な膜を破って出てくることを「胚脱皮」と称することとした.卵塊中の全ての卵が卵殻孵化を終えるのに約20分を要するのに対して,それらの卵が胚脱皮を終えるには約5分しかかからない.その後,体を出して前脚を広げた幼虫のうち,1匹の幼虫が中後脚を動かし,卵殻から出て落下しようとすると,その接触刺激が隣接する幼虫へと連鎖的に広がっていき,卵塊レベルで孵化した幼虫が一斉に水中へと落下した.常に湿った状態では,卵殻孵化が胚脱皮よりも時間を要したのに対し,オスが保護してきた,つまり乾燥と給水を繰り返した,孵化直前の卵に水をかけると,全ての卵の卵殻が割れたことから,保護オスが給水により,卵殻孵化のタイミングを調節可能であることが示唆された.胚脱皮は破裂音を伴うので,その振動を感知した他の卵も胚脱皮すると考えられ,1個の卵の胚脱皮が周辺の卵の胚脱皮を誘発し,全ての卵の胚脱皮が短時間で起こる.以上の結果から,タガメの卵塊における一斉孵化のメカニズムには,卵殻孵化については保護オスが,胚脱皮と幼虫の水中への落下については,卵または幼虫のコミュニケーションが関わっていることが明らかになった.

言及状況

外部データベース (DOI)

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タガメの孵化と言えばこの構図!という写真。卵の殻の破裂音の振動が刺激となり一斉孵化につながるという研究があります。 大庭伸也(2002)タガメの卵塊における一斉孵化メカニズムとその意義 https://t.co/GPEyWYvitY https://t.co/MovfTSY5C5

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