- 著者
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北原 真冬
- 出版者
- 日本音声学会
- 雑誌
- 音声研究 (ISSN:13428675)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.2, pp.45-51, 2009
統計的手法を導入した最適性理論(OT)と調和度文法(HG)を中心に最近の研究動向を概観した。候補のセットから最適な形式を選ぶ文法モジュールと,文法の時間的変化を扱う学習アルゴリズムを切り離し,それぞれに確率分布を扱う計算機構を入れて考えると,範疇的でない変化の過程や自由変異に沿うような組み合わせは何かを様々に探求することができる。本稿では特にBoersma and Hayes(2001)の提案とそれに対する批判,そしてさらに批判を乗り越えた新たなモデルができていく過程を中心に扱った。しかし,時間的・確率的に変動する事象は音声学から音韻論,心理言語学にいたる広い範囲に様々な形で存在している。それらを扱うためにはランキングとその学習アルゴリズムだけでなく,ほかにも確率分布を扱える機構を組み込む可能性を検討する必要がある。制約に直接音声学的な機構を反映させる方法や,候補のセット全体を空間に見立てて,その振舞を確率的に扱う方法の一端も紹介した。