- 著者
-
丸山 康司
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.149-164, 1997
<p>環境問題に対する認識が深まるにつれて、自然との共存という概念が注目されてきている。だが、共存の対象となる自然についての認識は必ずしも深まってはいない。自然保護に関する意識を見ると、観念的な自然保護に規定されている傾向が認められ、人間の介入を規制することによって自然が保護されると理解されている。しかし、実際に自然と接触のある地域においては状況が異なり、より具体的なレベルで自然保護を理解している。ここで、注目されるのが生活と環境という領域における諸研究であるが、人間-自然関係のうち親和的ではない関係の持つ意味について、十分検討する必要がある。</p><p>青森県脇野沢村では、天然記念物である北限のサルによる食害問題が深刻化しており、サルの保護と地域社会の両立が大きな問題となっている。このことが問題化した原因としては、明治以降の狩猟、森林伐採、拡大造林、サルの観光資源化、不良作物の投棄などの事実が複合的に作用したことが指摘できる。自然との共存とは、これらを総合的に扱いながら問題の解決へ向けて対策をとることであると思われる。</p><p>ここでは、サルの保護と被害という状況の中で、総合的な解決に向けた試みが行われている。その1つの理由として、サルが存在感に満ちたものとして認識されていることがあげられる。このような認識を得るに当たってサルの否定的な要素も組み入れた上での総合的な接近が重要な意味を持っていると考えられる。</p>