著者
定延 利之
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-44, 2004-04-30
被引用文献数
1

声質は話し手の気持ちと対応するが,両者の対応は単純な形ではつかみ難いとされている。本稿は,この対応の複雑さを多少とも解きほぐすには何が有効かという問題を検討するために,「りきみ」と呼ばれる現代日本語の一つの声質を考察した。自然対話と母語話者の直観を併用した観察の結果,以下の結論が得られた:第1点,りきむとは,何らかの気持ちを「表す」ことではなく,何らかの気持ちに「なってみせる」ことである。そう考える方が実態(たとえば,その気持ちになった体験を持つ者しかりきめないということ)に合致する;第2点,りきむ話し手が「なってみせる」気持ちとは,基本的に,苦しみか感心である。苦しみや感心と関わらず,強調を表すかに見える場合は,りきみの生起環境が修飾構造内に限られており,「修飾構造内での態度的意味の抑制」という文法現象として理解できる;第3点,以上の2点が正しければ,声質と気持ちの対応の複雑さを解きほぐすには,文法,情報,コミュニケーションを統合した観点が有効である。

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