著者
加藤 ゆき恵 冨士田 裕子
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.65-82, 2011
参考文献数
84

北米・北欧を中心に分布する北米要素の多年生草本ムセンスゲCarex livida(Wahlenb.)Willd.は,極東地域ではカムチャッカ,千島列島,サハリン北部,朝鮮北部及び北海道に点在する.北海道内では北部の猿払川流域の低地湿原と大雪山高根ヶ原の山地湿原,知床半島羅臼湖周辺の湿原に隔離分布し,絶滅危惧II類に指定されている.本研究は,知床半島羅臼湖周辺湿原のムセンスゲ生育地の植物社会学的位置を明らかにすること,湿原の立地環境からムセンスゲ生育地に共通する条件を考察することを目的とした.また,1980年代に行われた植生調査結果と比較して,周辺環境の変化が植生に与えた影響の有無を検討した.植生調査の結果,3群落を区分し,それぞれ2つの下位単位を区分した.ブルテ群落(R1,R2)は1980年代のブルテ植生から大きく変化していなかった.また,植物社会学的地位を検討した結果,ツルコケモモ-ミズゴケクラスの典型オーダーとも考えられるワタスゲ-イボミズゴケオーダーに属する群落であると推察される.シュレンケ群落(R3)は1980年代の調査結果とは異なる植生であったが,これは羅臼湖周辺の湿原群における調査地の位置が異なることによるものと考えられる.また,R3群落は,高層湿原シュレンケ植生のホロムイソウクラスScheuchzerietea palustris,貧養湿地小形植物群落のホシクサ類-コイヌノハナヒゲ群団Eriocaulo-Rhynchosporionが帰属を検討できる対象であると考えられるが,いずれのクラス,群団の標徴種・区分種ともに,R3群落では特徴的な出現傾向が見られず,植生標本データを増やした詳細な検討が必要である.ムセンスゲはR2,R3群落に出現していたが,群落の組成は猿払川湿原,大雪山高根ヶ原の生育地とは異なっていた.しかし,湿原の微地形は他の生育地と同様に,本湿原においてもケルミ-シュレンケ複合体が形成されていることを確認した.ムセンスゲの分布中心である北欧・北米では,ムセンスゲはpatterned mireと呼ばれる微地形を有する湿原に生育し,本調査地も小規模なpatterned mireと考えられることから,ムセンスゲは野外ではpatterned mireあるいはケルミ-シュレンケ複合体のような帯状の起伏が連続する微地形上が生育適地であると考えられる.海外のムセンスゲ生育地の立地環境と比較したところ,本調査地におけるムセンスゲの生育環境はカナダ大西洋岸地域と類似していた.

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ちなみにこの図は羅臼湖のムセンスゲを記録された釧路市博物館の加藤さんと北大植物園の冨士田さんの論文をそっくり参考にさせていただきました! http://t.co/5FirMkLJew また、K-S複合体四千年の歴史については http://t.co/R25ZyuIP4K をどうぞ

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