著者
西 真如
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.267-287, 2011-12-31
被引用文献数
1

HIV/AIDS対策は、さまざまな知識や制度を動員した包括的な取り組みとして実施されるが、そこで中核的な役割を果たす技術のひとつとして、HIV検査を挙げることができる。サハラ以南アフリカでは近年、特別な設備がなくてもHIV検査を実施できる簡易検査キットの普及が著しい。検査キットは、あらゆる場所で「疫学的な他者」をつくりだす道具である。本稿では、エチオピアのグラゲ社会におけるHIV予防介入の展開と、HIV不一致カップル(一方がHIVに感染しており、他方が感染していないカップル)の経験について検討する。そしてHIV予防介入がつくりだす生政治的な過程の中で、疫学的な他者との共存を拒絶する政治が進行しているように見えるときにも、人びとが不一致を受容し、肯定的な関係を取り結ぶ可能性があることを明らかにする。不一致を生きる人びとの倫理的な関係を問う過程を、本稿では「生きられた身体の政治」として把握しようとする。生きられた身体の政治は、疫学的な知識を否定したり、公衆衛生介入を拒絶する過程ではない。むしろそれは、他者の身体が疫学的に危険であることを受け容れた上で、そのような身体を生きる者たちが、互いの健康と人格への配慮にもとづいて肯定的な関係を取り結ぶ可能性を開いてゆく実践である。

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