- 著者
-
藤本 浩一
- 出版者
- 神戸松蔭女子学院大学
- 雑誌
- 神戸松蔭女子学院大学研究紀要. 人間科学部篇 (ISSN:21863849)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, pp.13-26, 2013-03-05
何かをしながら別のことを記憶し続けるとき、私たちは保持と処理の両方に関わる脳の機能であるワーキングメモリ(作動記憶、作業記憶)を使っている。Baddeley によれば、ワーキングメモリとは、聴覚言語的記憶、視覚的記憶、エピソード記憶、そしてそれらを組み合わせて考え判断する中央実行系から成る。本論では、ワーキングメモリの弱さが発達障害児に共通しているという指摘に基づき、ワーキングメモリ訓練教材の作成とその効果の検証を試みた。グー・チョキ・パーの絵柄を単語カードに一枚ずつ貼り付けて束ねたカード式教材(ジャンケン・メモリ)と、PC 上で実施するマトリクス教材等を作成し、健常女子大学生33 名に試した。リーディングスパン・テスト(RST)などによる事前・事後テストを実施して比較したところ、どちらの教材群もわずかな訓練期間にもかかわらず効果が認められた。しかしながらRST テストの慣れの影響などが否定できず、むしろ今後の問題点として以下の事柄を指摘した。それは、①集団式の事前・事後テストは実施上限界がある、②被験者の興味が湧く教材が必要である、③訓練日数や訓練の仕方を出来るだけ細かく指導し統制する、などである。また、脳をトレーニングすることの効果について反論を取り上げて検討し、なお効果があるとの見通しを示した。